遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)

第18回PIPIT交流会 「伝統と革新、未来に繋ぐ『家業イノベーション』~家業を継がせる人、家業を継ぐ人、継いだ人。事業承継を考える。~」(遠賀町商工会との協働企画)(9月26日開催)

2018年 09月 27日

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 今回のテーマは「家業イノベーション」。世代を越えていかに家業を承継し発展させていくのか、継がせる側、継ぐ側の思いはどんなものなのかについて、奇しくもともに三代目・四代目という2組の事業者にお話をしていただきました。
 事業の承継が上手くいくかどうかは、地域の将来にも何かしら影響を及ぼします。そんな背景もあってか、会場の参加者には承継をすでに終えた親子やまさにバトンタッチに直面している創業者、そしてこれから親の事業を継いでいこうとしている若者など、事業承継の「当事者」たちも集いました。

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 最初に遠賀町商工会による活動紹介がありました。
 商工会は経営支援に限らず、地域のつながりや業種間の交流に一役を買うなど、地域振興に大きな役割を果たしています。遠賀町内の事業所の6割以上が加入する商工会は、地域を支えながら事業者の心強い励みになっていると感じました。

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徳田畳襖店三代目 徳田幸生氏(右)、四代目 徳田直弘氏(左)

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まるは油脂化学株式会社 会長 林眞一氏(左)、代表取締役 林竜馬氏(右)

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 1組目は、朝倉市で創業113年目の「徳田畳襖店」。四代目の27歳、徳田直弘氏が登場です。もともと音楽の道を志していた彼には家業を継ぐ意思はありませんでした。直弘氏の転機になったのは、畳をテーマにした楽曲を披露して大きな反響があったこと。家業の良さを再認識し、事業承継のきっかけになったと同時に、畳屋ラッパー「Mc Tatami」としての活動が始まりました。
 家業の伝統や技術に、クリエイティブな工夫を加えることで新しい発見や面白さがあり、仕事へのモチベーションにつながっていることが、生き生きと語るその姿から伝わります。時代は猛スピードで移り変わっていくもの。事業をただそのまま受け継ぐだけでは衰退を避けられず、生き残りが難しい場合もあるでしょう。ホームページを使ったプロモーションやブランディング、自らがメディアに露出するなど、新たに取り組んでいることの具体的な紹介がありました。

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 また、継がせる側、継ぐ側の役割分担や関係性についてもお話がありました。政治・経済、全国の事例や関心事など、どんなことでも親子でとことん議論をするそうです。四代目の直弘氏は従来の慣習にとらわれず新しいことへのチャレンジに積極的。三代目の父 幸生氏は伝統や職人気質を過度に重んじるよりも、最新の技術やアイデアを柔軟に受け入れようとする姿勢があるのも見逃せません。それぞれが関心のある分野を活かした役割分担、駆け引きや虚飾のない親子ならではの関係性は、時代変化へのスピード対応につながるような気がしてきます。

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 直弘氏は新たな挑戦として、畳敷きの飲食店を構想中とのこと。交流会では、畳で作ったネクタイやバッグも披露してくれました。幸生氏自身、畳の技術に加え新たに襖・表具技術を習得し、事業者としての付加価値を高めた実績があります。そんな道のりと息子の挑戦が重なって見えるのでしょうか、直弘氏を優しく誇らしげに見守る姿が印象的でした。

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 2組目は、無添加「七色せっけん」を製造・販売する創業86年の「まるは油脂化学株式会社」林眞一会長にお話いただきました。
 「人と自然に優しい石鹸を」をモットーに、天然素材にこだわり、昔ながらの釡だき・自然乾燥・枠練り製法で製品を作っているとのこと。合成界面活性剤や合成着色料・保存料を一切使わないという徹底ぶりで、赤ちゃんや敏感肌の方を中心にファンを増やしてきました。使用後に環境を汚さないというのもポイント。ボディケアだけでなくヘアケアや洗濯用まで商品もバラエティに富んでいます。
 眞一氏は商品開発や市場開拓に熱心だった先代の背中を追い、時代の少し先を読み、人の役に立つこと、そして中小企業ならではの着眼点と行動力を持つことでオンリーワン経営を目指し努力を重ねてきました。社会貢献と企業の永続を願う父の言葉を、隣の竜馬氏は、静かに頷きながら聞いています。息子の竜馬氏は得意先での勤務を経て15年前に入社。昨年、代表取締役となったばかり。100年企業を目指したいと奮闘されています。

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 社長交代は5年前の株主総会で最初に宣言。周囲も温かく見守りながら応援してきたことでしょう。しかしすべてがスムーズに行くことばかりではありません。時には意見の相違もあり、ケンカをすることもあるそうです。「そんな時はもう、開き直って前を向くしかないんです。」と眞一氏。経営者としての覚悟を、「父と息子が一心同体となって引き受けている」、そんな風に感じました。

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 今回お話ししていただいた2組のケース、感動したのは、世代ギャップや考えの違いから本音でぶつかり合いながら、お互いの立場や個性を尊重して自然体で乗り越えていること。また、家業を継がせたいと親が強く望んで子に仕向けるのではなく、やりがいをもって働く姿を日常的に見ながら子が育ち、大人になってふと気がつけば、そこに家業があったというような感覚で、親から子へ無理なく引き継がれている素晴らしい事業承継の姿を見せていただきました。
 後半、参加者の「幸せな家族だなと思いました。」との感想には会場中が共感しました。目まぐるしい時代、先行き不透明な家業を継がせることで子どもに苦労をさせたくないと、悲観的に考える向きも理解できます。しかし、地域のなかで家族・仕入先・得意先と紡いできた物語を簡単に終わらせてしまうのはもったいないことです。行政や商工会といった機関のサポートもフルに活用しながら家業イノベーションを成功に導き、幸せな家族の生き方というものをしっかり実現して、地域がますます発展してほしいと切に思った交流会でした。

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徳田様、林様、ご参加いただきました皆様、ありがとうございました!

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