遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
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「多様な教育~子どもの未来をつくる起業家たち~」第20回PIPIT交流会(11/28開催)

2018年 11月 29日

 今回のスピーカーは、教育に関するNPO法人を運営するお二人。会場には、教育や福祉の現場にいる方はもちろん、ITや人材事業、フリースペースに関わる方など、実に多様な方々が集まりました。ティーンエージャーの姿もあり、男女比は半々。少子高齢化が叫ばれ、外国人材が話題になっている昨今、どんな話が聞けるだろう...と皆さんワクワクされているようでした。

【プレゼンテーション1】****************************

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 NPO法人 いるかネット 代表理事 田口 吾郎 氏

 大学生の時から、地元の市営団地には「大学進学者が一人もいない」ことに疑問を抱いていた田口氏は、近代ドイツの社会学者マックス・ウェーバーの著書からも刺激を受け、企業に勤務した後、東日本大震災のボランティア活動を経て、地元に戻り、まず高齢者の見守り事業に着手します。しかしその中で、子ども達が抱く「将来へのあきらめ」を見聞きするうち、「貧困の連鎖」という現象にいてもたってもいられなくなりました。

 ひとり親、兄弟が多い、環境が整わない、障害がある、外国籍...福岡県のこども貧困率は全国4位、市営団地の生活保護受給率22%という現実。そこで、自治会や民生委員、公民館ともタッグを組み、「マナビバ」運営委員会を設立したのは、ほんの4年前のことでした。その2年後には無料学習会マナビバが「ふくおか共助社会づくり表彰」を受賞、安価で子ども達に食事を提供するキッズカフェ「タベルバ」にも着手していきます。

 現在、中学3年生を主な対象としたマナビバは、全国21カ所で開催され、日本最大規模。大型団地の集会所を使い、約3,400人の子どもが、約1,900人のボランティアに支えられ、個別指導を受けているそうです。各教室にはマネージャーを配置し、指導の前後には念入りにミーティング、環境を整えることに手間暇を惜しみません。

 マナビバの目的は、学力向上や進学だけではありません。習慣を変え、さまざまな大人とふれあうことで、自分の夢や希望を具体的に考えて、実現していく力につなげることや、負の連鎖を断つための居場所作り、そしてキャリア教育でもあるということが理解できました。

 「お金を集めるのが苦手で」と笑いながら、運営についても、複数の企業、個人から寄付や物品提供を受けているものの、自主財源がなく、助成金が頼りであることなどざっくばらんに話してくれました。

 あの未曾有の被災地を見てきた田口氏なら、きっと前だけを見続けていくにちがいない、困っている人を放っておけない「熱血」エンジンが高速回転することを想像し、拍手を贈りました。

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 親の学歴や収入が、いかに子どもの学歴につながっているのか、といったデータも紹介しながら、田口氏の語り口からは、時々「怒り」が噴出します。「愚痴っぽくてスミマセン」と何度も。罪のない子供たちが、大人の事情の犠牲になっていること。豊かなはずの日本で、社会保障から取り残されてしまっている大切なこと。活動すればするほど、やり場のない不条理や課題につきあたるのでしょう。「子どもの貧困、そんな言葉自体をなくしたいんです」。熱い想いをエネルギーに変え、ひた走る田口氏に、参加者は無言のエールを送っています。

【プレゼンテーション2】****************************

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 箱崎自由学舎 えすぺらんさ 代表 小田哲也氏

 スペイン語で「希望・夢」を意味する「えすぺらんさ」を運営する小田哲也氏は、元高校教師。しかし、その風貌や笑顔は、日本の教師らしからぬ風をまとっています。それもそのはず、JICA青年海外協力隊員、企画調査員として、南米諸国に7年滞在。その風土の中、さまざまな事情を抱えた青少年に接した過去がありました。当時の写真には、底抜けに明るい子ども達の笑顔。「学ぶ意欲」「分かる喜び」にあふれていたそうです。

 いま、不登校と呼ばれる小学~高校生は全国で18万人以上。子どもの数が減っているにもかかわらず、不登校児童数は一向に減る気配はありません。南米より帰国した翌年に「えすぺらんさ」を設立した小田氏は、最初は子ども達を学校に戻そうと考えたそうです。しかし、一方的に「正しさ」を押し付けられ、競争に追い立てられ、自尊心や自信を失った子ども達が、そこで笑顔になれるわけはありません。そこで、えすぺらんさ流の教育が展開されていきます。

 クッキングデイでは、何もかもが子ども達まかせ。考える時間、話し合う時間、共有する時間をたっぷり持つ中で、子どもは大人の発想をひょいと越え、素晴らしいものを作り上げます。「よくできたね。」「がんばったね。」そんな声かけから、子どもは「やればできる」「自分は大切な存在」といった感覚を得て、どんどん元気になっていくそうです。

 既存の学校にはいないようなゲストティーチャーも魅力。こんな大人がいる、こんな生き方がある、と子どもは夢を広げていきます。他にも米を育てたり、キャンプやボランティア活動をしたり。学習は個別指導。さらに、保護者の座談会等をひらき、支え合い、交流の機会を作ります。子どもは、その家族まるごと、まさに「えすぺらんさ(希望・夢)」に向かっていくのです。

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 しかし、運営については、やはり厳しい現状がありました。在校生の月謝を引き上げることはままならず、助成金は不安定。コアスタッフの給与は低く、ボランティアスタッフには交通費のみ、といった状況です。「どうやってモチベーションを保つのか」といった質問には、「子どもの変化です。楽しさがあるからです。」とすぐに答えが返ってきました。フリースクールの経営を収益面だけで考えれば、これほど効率悪いものはないでしょう。しかし、いま悩んでいる目の前の子どものために「誰かがやるしかない」仕事なのです。

 小田氏の首からはネクタイの代わりに「マイ箸」が揺れていました。これを持ち歩くからといって、世界の森林伐採が止められるとは限りません。しかし、行動し、出会い人に話すことで何かが変わり始めるかもしれない、そんな「えすぺらんさ」らしいラテンの軽やかさを持った人間的な魅力たっぷりのお話でした。

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