遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
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女性起業家がつくる「女性が輝く」ビジネス(福岡県「創業+応援くらぶFUKUOKA」×第28回PIPIT交流会)(11月 26日開催)

2019年 11月 27日

 今回の交流会のテーマは「女性が輝くビジネス」。福岡県「創業+応援くらぶFUKUOKA」とのコラボ企画として、女性起業家3名をお招きしました。ハウスクリーニング、美容・健康事業、総合デザインと事業内容は違うものの、それぞれの資質と視点でオリジナルな事業を展開されている皆さん。多忙な子育て期に、どんな思いで起業という道を選び、現在に至ったのか、率直にお話いただきました。会場には、起業したばかりの方から、ベテランの事業主まで、男女比も同じくらいの方が集まり、耳を傾けました。

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プレゼンテーション1******************************

「1点の強みで突破しよう!~『女性による女性の為の』訪問業として起業。各メディアに注目されすぐに経営を安定させた方法~」 
香川 裕子氏(キレイ堂株式会社 代表取締役)

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 香川氏が、女性だけの訪問清掃サービス「キレイ堂」を起業したのは、2002年。子どもが2歳と4歳の時でした。夫は「働くなら、家事・子育てを100%やった後で」と言い、姑は「女は働かなくてもいい」とつぶやく、そんな時代です。しかし香川氏は、いわゆる「ママ友」たちと、日常の不便不快を語りあうところから、ビジネスの芽を見つけます。いわゆる「ワンオペ」な自分たちがして欲しいこと=立派なニーズ。そこから、わずか1週間で起業を決め、活動を始めました。なんと夫には事後報告。まずは、そのバイタリティとスピード感に会場がどよめきます。当時は、清掃業といえば、ビルメンテナンスやエアコン洗浄を指すもの。男性の世界です。対して、キレイ堂は、いわばママ友主婦チーム。動けるのは、子どもが不在の10時~15時のみ、資金はゼロ、ノウハウもゼロ。ただ、女性ならではのアイデアやセンスは無尽蔵にあり、今までなかった、かゆい所に手の届くようなサービスを「売り」にすることができそうです。さっそく、他の清掃事業者や洗剤問屋などに働きかけ、弟子入りしたり、サンプルを無料で分けてもらったり。利益は度外視、まずは職人的な技術を磨き上げました。同時に地域戦略・時間戦略・顧客戦略を丁寧に立て、実行していきます。全ては、具体的に、狭く、深く。顧客像も年齢から職業、家族構成まで、詳細につめて「たった1人」をイメージしたといいます。
 香川氏が説くのは、「1点突破」です。1点の強みを深く掘り下げ、1位になれる何かを見つけること。思いついた事柄を日々書き出し、絞り込み、練り上げ、「戦わずして勝つこと」を念頭に行動しました。広告や宣伝にもお金はかけません。良い意味での「主婦根性」も発揮。女性ばかりの安心感、清潔感に加え、仕上げに花を生けるなど他社との違いも積極アピール。メディアはどんどん取り上げ、事業は拡大していきました。
 さらには、「掃除文化」の素晴らしさを広めたいと「キレイコンシェルジュ協会」を設立し、これまでに得た知恵や見識を「親子お掃除教室」や講演会などで伝え始めました。ママ友仲間たちと始めた小さなビジネスが、年月を経て、社会や後進のため、と目指すところに変化も生まれてきたのです。

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 誰にでも等しく与えられている1日24時間をどう使うか。家族にしばられ、時間に追われ、ストレスだらけ、そんな女性たちだからこそ、できることもあれば、やり方もある。起業を必要以上に重くとらえず、とにかくスタート!ピンクのエプロン姿ではつらつと語る香川氏の言葉に、背中を押された方も多かったことでしょう。

プレゼンテーション2******************************

「女性にこそ必要な稼ぐ力。高純度エラスチンを通して実現したい未来
中澤 日香里氏(株式会社ACTLAND 代表取締役)

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 石川県生まれの中澤氏が、大学を卒業したのは、就職氷河期と言われた2003年。何とかやる気をアピールして縁をつかみ、井筒屋に就職したものの、キャリアに関してはこれといった実績を残すことなく、結婚、出産、専業主婦となりました。2人の子どもに恵まれ、安穏と暮らす日々。そこに激震が走ったのは、パートナーの病気でした。一生つきあっていかなければならない難病の宣告を受けたのです。
当時34歳、子どもはまだ手がかかるうえ、パートナーの看病が加わり、さらに家計がズシリとのしかかってきたのです。「今まで何て危険な生き方をしてきたのだろう」と青ざめました。女性が結婚し、パートナーの経済力を前提に家庭に入る。そのリスクの大きさと、結婚前にキャリアを築けなかった自分に、改めてコンプレックスを感じたといいます。
 とにかく、大切な家族との暮らしのため、稼がなくては。それが、一番の原動力となったことは間違いありません。パート先で、正社員になり、「エラスチン」という特許抽出された美容素材と出会うと、営業力を磨きに磨きました。その結果、それを販売指導する立場となり、ついには「社長業」を任されるに至ったのです。しかし、経営は既に悪化しており、毎月末は、まるでゲームオーバー直前のテトリスのよう。そして、オーナーに窮状を訴えると、まさかの「解雇通告」を受けてしまいました。
 ついに起業の時が来ました。追いつめられた末の独立。夢や理想とは無縁の、崖っぷちからの起業です。しかし、これまでの顧客との関係や営業ノウハウ、それを知る人々が、中澤氏を後押し、資金も集まり、ついには、エラスチン「季令 KIREI」ブランドを誕生させました。自ら切り開いた販路や惚れ込んだ素材を手に、真の事業主になったのです。
 パートナーの発病を機に、家庭でも仕事でも大変な思いをしてきたはずの中澤氏。しかし、優しい笑顔とソフトな語り口調には、微塵の悲壮感もありません。

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 「仕事は単なるツール。それで何を生み出すかといえば、お金かもしれないし、人間関係かもしれません。そして、その2つがあれば、悩み事はたいてい解決できるんです。」、「人間の能力は、本当に人それぞれ。それを見つけて、必死で磨いていくだけです。」自分の仕事に対して、重ね続けた努力。コンビニよりも多いと言われるエステサロン業界で、困難にも屈せず、ひたすら前を見て進み続けるその姿に、勇気をもらった方も多かったことでしょう。

プレゼンテーション3******************************

「デザインのしごと~年齢と一緒に~」
高倉 朋子氏(ブルーバーズデザイン株式会社 代表取締役、& LOCALS 店主)

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 幼いころから、絵を描くことが大好きだった高倉氏。日本料理店を営む父と、日常に着物を着こなしていた母からは、後継を期待されて育ったそうです。しかし、大学卒業後に就職したのは小さなデザイン事務所。数年後には、そこで出会ったアメリカ人と、グラフィックデザインで独立を果たします。「やりたいことをやっていく」そんなクリエーター魂は、やはり20代からあったのでしょう。
 その後は、結婚、出産。家庭に軸を置きながら、第二子が幼稚園の頃に、いわゆるママ友と再びアクションを起こしました。女性だけのデザイン会社を設立し、福岡市のインキュベート施設「福岡ビジネス創造センター」に優待入居したのです。掲げたのは、女性・母親目線と消費者意識。子育て中だからこそ、気づくこと。わかること。望むこと。そこに時代の空気と高倉デザインを融合していったのです。
 最初に評判を呼んだのは、子どもが無造作に描いた落書きを、インテリアアートに仕上げるというアイデア。大手デパートの目にも止まり、ビジネスとして成功します。日々の暮らしの中で、埋もれてしまいがちな小さな輝き。「こんなものがあったら」という女性ならではの細やかな発想。活動の場は、商品開発やグラフィックの世界に止まらず、空間、建築、イベントと広がっていきました。
 費用をかける場所、節約する場所を仕分けし、クオリティと低予算を両立したコストパフォーマンスも「売り」です。経営者であると同時に、生活者であること。その絶妙なバランス感覚は、おそらく女性ならではのもの。日常の先にある、お洒落感とお値ごろ感も、同世代同性の共感を呼んでいきました。
 起業から10年、一昨年からは、地域食材を伝えるショップ「&LOCALS」を立ち上げました。地域の生産者たちの良質な食を、デザイン会社がプロデュースするという試み。重要なのは、デザイナーの個性ではなく、モノの背景にあるストーリーを伝えること。この飽食の時代に求められる意匠を、的確に具現化することで、新たなフィールドをつかんでいきました。

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 起業した当時には、想像もできなかった今。20代の頃は、30を過ぎたら、感性が鈍ってデザインの仕事は出来ない、と思っていたそうです。しかし、それは大きな間違いでした。人生のその時々に感じる、リアルな感性は本物。変化していくのも当たり前。怖がらず自分の感覚を信じようという、クリエーターらしい、フエルトのつば広ハットからは、そんな無垢でまっすぐな瞳がのぞいていました。

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 最後に「創業+応援くらぶFUKUOKA」より、「社長のカバン持ち事業」についての説明がありました。創業から概ね5年未満の、経営の安定と成長に意欲を有する事業者を中心に、新分野進出等に繋がる情報を共有したり、提携を提案したりしているとのこと。起業を考える人にとっては、心強い味方となってくれそうです。

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