遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
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「地域おこし起業家の事業展開2023~福岡よかとこビジネスプランコンテスト受賞者に聞く~」 第48回PIPIT交流会(3月7日開催)

2023年 03月 17日

 今回の交流会は「地域おこし起業家の事業展開2023」をテーマに、福岡よかとこビジネスプランコンテスト受賞者の3名にご登壇いただきました。

 新型コロナウイルス感染予防対策のもとPIPIT会場に発表者と参加者が来館され、またオンラインでも多くの方々にご参加をいただきました。



◆起業家プレゼンテーション

〇プレゼンテーション1

「私たちの秘密基地~すべての子どもたちが自分の可能性を信じてチャンレンジする場所を作る~」

安田 侑樹 氏(福岡よかとこビジネスプランコンテスト2022 地域活性化賞受賞)

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 安田氏は田川市で生まれ、幼い頃に朝倉へ移り18年間過ごしました。放射線技師や医療機器関連企業での勤務を経て、元々思いがあった教育や福祉の業界で働きたいと、「Teach For Japan」という認定NPO法人のプログラムを利用して、小学校の教員をしています。

 安田氏の事業は、子どもを対象としています。児童相談所における児童虐待対応件数は年々増加しており、田川でも心や体が傷ついている子どもたちが増えています。これは、子どもたちにとって安心できる居場所がなく、自分を信じる力や社会とのつながりを実感することができないことが原因と言われ、内面に課題を抱えたまま社会に出てしまう子どもたちが多くなっています。

 安田氏は、この社会に出たあとのアフターケアの問題に注目し、子どもたちの内面の課題をサポートすることにしました。

 具体的には、体験学習事業として社会や自然とのつながりを五感を通して実感する『保護体験プログラム』と、児童自立生活支援事業として15~20歳に居場所を提供する『自立援助ホーム』で組み立てており、この2つの事業によって、子どもたちに安心できる居場所をつくり出すものです。

 安田氏が起業を選択した思いとして、自分の原体験がありました。大人の顔色を見て「仮面を被り続けていた」ことで、社会に出る際にも他人の意思で仕事を決めてしまったために、仕事での失敗が続き、挫折を味わいました。しかし一方、自然体験や友達との関係があったこと、目標となる大人がいたことで、自己理解のプログラムや人との関わりを築くことができたそうです。

 また、学校現場で働く当事者として、今の学校では教員不足や業務の多忙さなどから子どもたちへのケアが困難なことを実感し、学校の外から子どもたちをサポートすることが有効だと判断したそうです。

 安田氏のビジネスは、学校や保育園などの施設に対して体験学習を提供する事業と、子どもに対して居場所や自立支援を提供し、行政等から収入を得る事業で組み立てています。ここで工夫したことは、施設や体験場所を提供してくれる共同パートナーとの取組です。また、教育を学ぶ大学生や専門資格を持った保育士等の協働者も参加してもらうことで、自分だけでは難しい課題へも取り組むことができています。

 安田氏は、「すべての子どもたちに輝きを」というビジョンを持ち、「安心・安全できる場で、自分を知り他者と協働しながら生きていくことが出来る学びを提供する」というミッションを掲げ、学びながら活動を続けています。



〇プレゼンテーション2

「高齢者とZ世代を繋ぐバーチャル収穫サービス(仮称:MICHIBIKI)」

平井 一之介 氏(福岡よかとこビジネスプランコンテスト2022 ビジネスモデル賞受賞)

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 平井氏は八女市で代々続く専業農家に生まれ、半導体デバイスの研究開発職に就いた後に実家に戻り、7年前からイチゴの観光農園を始めました。この経歴はおそらく全国でも稀で、この経験を活かした独創性と革新性のある事業に挑戦しています。

 八女市は市町村合併により、福岡県では北九州市に次ぐ面積の大きな市になりましたが、人口流出が深刻、特産品であるお茶や農産物の価格改定が過去30年間できていない、市域が肥大化したためにまとまりがない、と言った課題に直面しており、平井氏が今回の事業を始めるきっかけになりました。

 また、数年前までは活気のあった観光農園も、コロナ禍によって収入が激減しました。その中で「ジャムづくり体験キット」を商品化してヒットしたものの、知名度を持つ大手に類似商品をつくられて悔しい思いをしました。そこで、優位性のあるビジネスをつくるために、再度自分の強みを精査したそうです。

 自分のスキルとしては、半導体と農業。自分の気構えとしては、活気あふれる故郷にしたいという思い。みんなが夢を持てるグレーター八女(八女広域都市圏)にしたいと考えています。

 「バーチャル収穫サービス」とは、バーチャル空間上にイチゴ観光農園を構築し、利用客はアバターとなって収穫を体験、収穫したイチゴを自分や知人に送り届けるというものです。「体験」と「商品」を提供するサービスで、Z世代の若者が農業に興味を持ち、仕事の選択肢として捉えることで、一次産業の活性化につなげたいと考えています。すでに特許を申請済みで、各分野の専門企業との取組を始めています。

 平井氏はこの事業において、現在の延長線上に想定される未来を目指す「フォーキャスティング」ではなく、望ましい未来の姿を設定する「バックキャスティング」という手法により、新しい価値観を持った顧客を生み出すことを目標としています。

 また今後生まれてくる人類にとっては、バーチャル空間での原体験が当たり前になっていることを想定し、メタバース空間においては自分の価値が認識できるという「空間の価値」の消費を促すことをイメージしています。

 バーチャル化による価値観の変化、少子高齢化社会での新たな体験、観光業強化という日本全体の流れの中で、八女市にはすべての強みが揃っています。今後はZ世代への認知拡大による付加価値の提供、さらに一次産業を若者が憧れる産業へ進化させ、高齢者とZ世代が寄り添う好循環を生み出したいと、思いを強くしています。



〇プレゼンテーション3

「試してうつわ選び cafe&gallery SIKI(試器)」

加藤 美咲 氏(福岡よかとこビジネスプランコンテスト2022 大賞受賞)

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 加藤氏は朝倉市杷木出身で、高校卒業後に陸上自衛隊に入隊し、後方支援活動に約5年間従事しました。2017年の九州北部豪雨災害を機に地元に戻って働きたいと、東峰村の地域おこし協力隊になりました。

 東峰村では小石原焼の共同展示場で販売マネージャーとなり、インスタライブを導入するなど自分のできることを活かして経営の改善に貢献し、その後独立して焼物の委託販売や陶器組合のイベント等に携わってきました。

 器の販売の中で、お客様から「いいね、でも自宅に合うかな?」と尋ねられたり、テーブルコーディネートしたSNSで「器が欲しくなった」とコメントもらうことが多くなり、「洋服を試着するように器も試してみたら」と思いついたそうです。

 アンケート調査をしたところ、半数以上の人が自宅で陶器や磁器を使っており、今使っていない人も興味があるとわかりました。興味があるが自宅では使っていない理由は、価格が高いと考えている他、料理を載せたイメージや、器のテーブルコーディネートがわからないという悩みでした。また、器を実際に食事で使ってみたら購買意欲が上がるかを聞いたところ、9割以上が上がると回答したそうです。

 加藤氏が開業する店舗『SIKI』では、小さい器や大きい器を用意して、自分で手に取って盛り付けてもらう「体験型」メニューを取り入れます。

 また、窯元とのコラボイベントとして、絵付け体験など子どもと一緒にできる体験や、オリジナル商品の開発等も計画しています。

 売上は、飲食、物販、修理で構成していますが、コロナ禍等で飲食での売上が見込めない時でも、物販や修理で収益が確保できるように考えています。さらに、店舗の位置が高速道路の杷木インターと東峰村との中間地点であるため、店舗に寄って東峰村へ行く、東峰村からの帰りに店舗に寄るという、窯元との相乗効果も期待できます。

 店舗づくりのために3つのことを行いました。一つ目は「人脈づくり」で、店舗物件の情報が得られたり、改装工事の際に協力者もできたそうです。

 二つ目は「資金調達」で、開業資金として日本政策金融公庫の融資と、福岡県の観光関連の補助金を利用しています。特に公庫の融資は、よかとこビジネスプランコンテストでの取組によって短期間で実現できたそうです。

 三つ目は「宣伝広告」で、元々インスタグラムで器を投稿していたことで、興味を持ってくれる人が増えたことと、改装工事中に店舗を開けていたことで開業を知らせることにつながったそうです。

 加藤氏の店舗『SIKI』は、3月18日(土)にグランドオープンします。



◆意見交換・質疑応答

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 意見交換では発表者に対して、事業とボランティアの区別や、体験することにより販売価格を上げられるか等、様々な質問や意見が出されました。

 参加者からは「起業するとはどういうことか、とてもよく理解出来ました」「地域との関わり、地域資源の磨き上げ、発信、大変学びになりました」等の感想をいただきました。

 ご登壇いただきました発表者の皆さま、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。