「多様なしあわせの価値観~福祉で起業~」第24回PIPIT交流会(3月20日開催)
今回の交流会のテーマは「福祉」。さまざまなキャリアを経た後に、遠賀町内で支援事業を行っているお二人と、障がい者の表現の場をサポートし「福岡県文化賞(社会部門)」を受賞されたNPO法人の代表者の3名の方にお話しいただきました。交流会には、遠く県外から駆けつけた方もおられ、最後まで盛り上がりました。
【プレゼンテーション1】****************************
一般社団法人アポロ/就労継続支援事業所ポールスタ 支援員 水上 竜馬氏
「小さな才能を輝かせる支援」
プロボクサーとして活躍していたこともあるというユニークな経歴を持つ水上氏は、妻であり代表の水上茉依子氏と共に、平成29年に就労継続支援事業所ポールスタを立ち上げました。「社会に適応するための指導を行う」というスタンスではなく、「障がい者の方々にとっても、職員にとっても、もっと楽しく働ける居場所を作りたい。」という想いからの起業だったそうです。
「ポールスタ」とは北極星。みんなが集う拠点として自ら光を放ちつつ、利用者も一人ひとり輝いてほしい、との願いが込められているそうです。
現在の事業は、オリジナル製品の制作・販売と、主な収入源となっているポスティング業務です。引きこもりがちの利用者にどう活動してもらうか、そのヒントは、自身の経験や子育てにあったと話してくれました。
「ありのままを受け止め、全力で味方をする」という姿勢。それは、かつて自分が両親から受けたものであり、今、我が子にしていること。人間の変化、成長には、そうした身近な人のサポートが必要なことを実感し、利用者に対しても、そうした姿勢で対応し、良い循環を生んでいると言います。
会場には水上氏のご両親の姿もあり、素敵な親子関係が垣間見える場面もあり、事業所でも幼い子と親、利用者みんなが共鳴しあい、成長している様子が想像できました。
【プレゼンテーション2】****************************
NPO法人 ハッピーワークス/児童福祉デイサービスかのん 代表理事 野本 明裕氏
「施設経営と地域社会との融和」
5年前に「NPO法人ハッピーワークス」を設立した野本氏は、船やバイクから、華道や茶道まで、幅広くたしなまれているだけでなく、珍しい犬種のブリーダーをしたりなど、実にユニークな経験をお持ちです。多彩な人脈と引き出しを持ち、「好きなことをして稼ぐ」人生を選ばれてきたことに、まずは参加者一同ひきつけられました。
その野本氏が、福祉の分野で起業に至ったのは、ホームレスの就労支援を行っていた時「みんなと同じように働きたい」との言葉にハッとさせられたことがあったからだそうです。単に生活保護の手続きをサポートするのではなく、本人の意思に寄り添うことが「真の福祉」であると気づいたことが、大きなきっかけだったと話してくれました。
施設経営に対しては、経験をふまえた上の具体的なアドバイスで、「福祉の仕事だから、自分は良いことをしている、といった傲慢な気持ちでは通用しない。」と言います。そして、ものごとには「順序」があるということ。例えば、地域の協力を得ようとする時には、まずキーパーソンの信頼を得てから動くなどの、知恵と工夫が必要と教えてくれました。
また、野本氏には「モンテッソーリ教育」という根幹となる考え方があります。「モンテッソーリ教育」は、「教育の主体は子どもである」という考え方の下、子どもに自主性や主体性を育む教育法で、現在は幼児教育の世界で知られていますが、元々は障がい者教育からスタートしている理念だということも紹介されました。その人に備わっている力、自発的な活動をいかに伸ばしていくか、という課題に、謙虚に丁寧に取り組んでいることが伝わってきました。
【プレゼンテーション3】****************************
特定非営利活動法人まる/工房まる 代表理事、
株式会社ふくしごと 取締役副社長、
九州障がい者アートセンター センター長 樋口 龍二氏
「障がいがある人とのアイダをつなぐ」
ハイセンスな「障がい者アート」がマスコミでも注目され、認知度を高めているNPO法人まる。樋口氏は、40名近いスタッフを率いて、福祉作業所「工房まる」、コミュニケーション創造事業「まるラボ」、株式会社ふくしごと、などを切り盛りしています。
樋口氏が、初めて障がい者と向き合ったのは、20年以上も前のこと。障がい者と向き合った緊張と戸惑いが、音楽を介して一瞬に打ち解けたことから、互いがそれぞれの個性や表現の違いを知りそれを認め合えば「障がい」は存在しない、と考えるようになったそうです。「そもそも障がいというものは、誰かに在るのではなく、何かと何かの間(アイダ)に存在する。」と樋口氏は語ります。例えば、「車いすの人が、2階に行こうとした時にエレベーターが無く行けなかった。」という場合、車いすの人自身ではなく「2階にいけない」ということが「障がい」なのだと。
maruでは、「障がい」をハンディキャップとしてそれに頼らず、作品のクオリティーやオリジナリティーで真っ向から勝負しています。また、スタッフには「利用者に接する時には(アーティストをプロデュースする)プロデューサーとして接してください。」と伝えているそうです。そんなる樋口さん自身もmaruのプロデューサーとして、独自のアプローチを展開しています。maruで手掛ける作品は、木工、絵画、陶芸、パフォーマンスなど多彩で、表現の場もギャラリーやカフェ、公共空間、商品パッケージと多岐に渡り、地元球団のグッズやオリジナルキャラクター「ピーナツくん」までも誕生させました。
アートとは、「心の循環、生きる力。」、そして、「社会に生きる足跡を残す・」、という意味も持ちます。そして、支援とは、「伴走すること」。「する/される」の関係ではありません。自助具を一緒に作ったりはしますが、表現は作家まかせ。ひたすら待つこともあるそうです。障がいを持った作家と、社会の間に立ち、時間、空間、仲間を共有しながら、真摯に向き合っていることが伝わってきました。
障がい者本人の変化だけでなく、周りの変化についても素敵な話が聞けました。家族に障がい者がいることを隠していた兄弟たちが、maruの活動を通してどんどんオープンになり、作品はもちろん兄弟たちの存在までも自慢にしているというのです。自ら体現されているmaruの活動を通し、起業とは単に事業を起こすことではなく、社会への「提案」であることを学ぶことが出来ました。
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福祉分野で起業した3名のお話は、どれも興味深く、仕事を通じて人生観も深めていることが大きな刺激となりました。かつての福祉は、ボランティアや慈善事業とからめて語られることも多かったように思います。しかし、事業としてのニーズ、可能性は考え方や環境によってはまだまだあると感じた交流会でした。