遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)

「未来のくらしを創造するものづくりファクトリー」~夢・感動・信頼で世界に⽻ばたく起業家精神~第23回PIPIT交流会(2月27日開催)

2019年 02月 28日

 今回は、工業分野。遠賀町は自然豊かな農業の町、というイメージが強いかもしれませんが、実は素晴らしい技術をもった企業がいくつもあり、多くの雇用も生み出しています。そんなものづくりの分野から、社長お二人を招いての交流会。会場には、男性を中心にイスが足りなくなるほど多くの方が集まりました。さて、どんな話が聴けるでしょうか。

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【プレゼンテーション1】****************************
 株式会社ワークス 代表取締役 三重野 計滋 氏
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 遠賀町の虫生津の静かな木立の中に工場を構える株式会社ワークスは、従業員数53名、年商6億円を超える超精密金型部品の加工・製造会社です。「限りなく丸く、限りなく平らに」をモットーにしたその超精密加工技術によるものづくりは、内外で高く評価されています。
 また、平成26年には「『日本人の匠技』モノづくりコンテスト」(日本精密機械工業会主催)の最優秀賞にも選ばれています。
 三重野氏が起業したのは、今から28年前、33歳の時でした。いわゆる「文系」だった三重野氏は、大学の同級生が銀行などに就職を決める中、自分は違う道を、と大手金型メーカーに入社します。プレハブの工場建屋には、世界屈指の最新マシンがズラリ。目の覚めるような感覚を覚えたそうです。しかし、成長していく企業組織の中で、枠にはめられていく自分を感じ、11年営業職を勤めたあと、ついに離職され、そこから、ワークスの歴史が始まりました。

 退路を断っての起業は、研削関連の機械工具販売商社でした。市営住宅の一室を事務所に、営業に励む日々。しかし、三年後には、販売業から製造業への転身を決意することになります。昼間は営業活動をし、夕方からモノ作り。しかも、素人がいきなり職人を目指すようなレベルです。「自分の人生を充実させたい。自分の責任で生きていきたい、と起業したものの、その時期は本当に大変でした。」と話してくれました。起業には必ずといってよいほど苦労はつきものですが、三重野氏のお話からは、苦労以上に、ものづくりに対する喜びや楽しみといったことが伝わってきます。それはすなわち、製品のクオリティを追及し続けるあくなき挑戦やものづくりに対する熱い情熱です。
 髪の毛よりも細い0.03ミリの極細ピンを作った話も印象的でした。それは、目的を持った製品ではなく、技術力をアピールするための、言わば、「目利き同士が分かり合うためのサイン」、とでもいいましょうか。そのピンを見れば、技術者は心を動かされ、すぐに話が展開していきます。営業マンでもあり、技術者でもある三重野氏は「顧客にとって、自分はどうあるべきか」と自問し続け、「利益をもたらし、感謝される存在に」と常に期待の一歩先を提案、会社を発展させていったのです。

 現在、社員の平均年齢は33歳。その高い技術は電子部品から、医療、バイオの分野へも広がりつつあります。人材育成にも力を注ぐ三重野氏の基本にあるのは「社会への貢献」。そして、企業理念として、いくつかの「責任」を掲げています。顧客、社員とその家族、地域社会、世界、支援者に対し、責任をもって仕事をするーそれが、ワークスを支えていることが理解できました。

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 最後に、起業を考えている人へのメッセージとして「行動/思考/ニーズに着目しよう」そして、「ワクワクすることを考えよう」と話します。三重野氏には、そんな心躍るアイデアがすでにたくさんある様子。その卓越した技術者魂とバイタリティに来場者は、大きな拍手を贈っていました。

【プレゼンテーション2】****************************
 クボタマシニング 代表 窪田 輝久 氏
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 マシニングとは、金属を削るなどして形を変え、穴やネジ山を開けたり、と設計通りに加工することなどで、自動車部品など大量生産されるモノ作りには欠かせない技術です。しかし、その過程には、マシニングセンターという特殊機械の他、CAD/CAMといったシステム、それを扱える人材等が必須です。窪田輝久氏が「クボタマシニング」を起業したのは2年前のこと。1年間じっくり考えた末の決断でした。そこにはどんな物語があったのでしょうか。

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 「この機械、皆さん、いくらと思います?」。戸惑う来場者に「フェラーリが買えちゃうんですよ。」と明るい笑顔。製造業の起業に伴う多額の資金を改めて感じていると、窪田氏からは、「借入なし。」の告白です。金型メーカーで30年を過ごした窪田氏は、その貯えを元にスタートアップできたそうです。さらに、資金の他、経験や人脈など、貴重な財産もすでに獲得していました。
 起業に至ったのは、「仕事が確実にある」、「代金を翌月に現金化できる」、そして「人を雇わずにすむ」の三つの条件が揃ったからだと話します。もちろんこの決断には、公私ともにパートナーとなる奥様の理解も得ていました。事務処理はもちろん、モノづくりを理解し、全般をサポートしてくれる人がどうしても必要です。まずは、二人三脚で開業。それから、短期~長期の目標を立て、邁進しました。
 製品や機械を語る窪田氏を見ていると、そこには並々ならぬ経験とこだわりがあることがわかります。「だからこそ」の仕事力。堅実な業績につながっていきます。そして、競合他社とどう差別化を図るのか、という部分も明確です。経験やカンが頼りの職人技ではなく、不良品を出さないための作業の仕組みづくりを、幾重にも綿密にしているのです。

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 起業した以上は、継続する力、進化も迫られます。また、人材育成も欠かせません。クボタマシニングでは、容易な操作で製品作りができるよう、工程をプログラム化しているそうです。これまで培った30年の経験すべてを、フルに自身の事業に注いでいることがわかります。
 奥様からも後で話を聞くと「メンテナンスにも大金が動くので最初は戸惑いましたが、モノ作りの現場って、実はとっても楽しいんですよ!」の声。「じっくり緻密な作業は、女性向きかも」とも言います。会社員から事業主、主婦からモノ作り、と夫婦で人生の新たなスタートを切り、充実した毎日を過ごしている様子でした。

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 起業のタイミングもきっかけも本当に人それぞれ。一見、対照的な三重野氏と窪田氏ですが、どちらも前職を活かし、自分らしさを加え、努力をし続けて、素晴らしい人生を送っていることが伝わってきました。ものづくり産業が発展していく遠賀町の未来が想像できる交流会でした。

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