遠賀町起業家フォーラム2021「SDGsの実践を通じて "位置価値(地域価値)"を高めている起業家たち」(11月13日開催)
第6回目の開催となる今回の「遠賀町起業家フォーラム」は、「SDGsの実践を通じて "位置価値(地域価値)" を高めている起業家たち」をテーマに開催しました。
発表者は九州一円で活躍している多様な起業家6名。 "位置価値(地域価値)"というキーワードのもとご登壇いただきました。
第1部では、川を使ったアクティビティの面白さ・災害との向き合い方、日本酒の蔵元七代目が語る地域とのつながり、農業におけるデータ活用の重要性と普及。
第2部は、制度を利用した不登校の子どもの居場所づくり、女性起業家による女性のキャリア支援、地域ステークホルダーを巻き込んだ若者の人材育成という内容でプレゼンテーションいただきました。
またコロナ禍での開催という事で、PIPIT会場とオンラインを合わせての開催となりましたが、県外も含めて多くの方にご参加いただきました。
【第1部】
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迫田 重光 氏(有限会社ランドアース 代表取締役社長)
『起業する際の覚悟 ~起業をする前の心構え、苦労、そして喜び』
私は、川を使ったアクティビティを専門とし、29年前から人吉球磨でラフティング会社を運営しています。他にも、九州唯一のレスキュー3ジャパンインストラクターとして急流救助の講師や日本一のバンジージャンプの総合プロデュースなど様々な事業を展開してきました。自分が一番大好きな事を事業にすることで、楽しく仕事ができ、来てもらったお客さんに喜んで貰え、また地域にも貢献できる素敵な仕事だと思っています。
私は小学4年生で親に頼み込んでテントを買ってもらったほど、小さな頃からアウトドアが好きでした。26歳の時に起業し、最初の5年くらいはアルバイトで稼いだお金を本業のラフティングにつぎ込みました。親戚や周囲の人からも無理だと言われながら、自分を信じて、諦めずに続けた結果、起業して4年目、ある旅行雑誌に当社の記事が掲載されたことでブレイクしました。「石の上にも三年」と言いますが「水の上には五年」だと思いました。今では球磨川にラフティングの会社が沢山でき、多くの観光客や修学旅行も受け入れています。関係人口が増えて、地元に住みたいという人が出てくれば大きなメリットだと思います。
私は、「起業」自体はそんなに難しくないと思っていますが、経営していくことは別です。最初は一人ですが、自分が信じたことを一心不乱にやっていく事で、少しずつ協力したいという人が現れます。そして、「企業」となるとビジョンや事業の目的が必要となります。それは複数の人が同じ方向を向くためです。こうやってどうすればもっとこの地域にたくさん人を呼ぶ事ができるかを考えていくことが経営ではないかと思います。
今は昨年の九州南部豪雨で全てを流され、経営はどん底ですが、皆さんには、やるだけのことはやって、満足のいく生き方をやってもらいたいと思います。夢という元気の源を心に持って、起業してもらえばと切に思います。
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井上 百合 氏(株式会社井上酒造 代表取締役社長)
『伝統を継ぐ ~7代目としての使命感~』
私が井上酒造の後継者として帰郷して7年が経ちました。小さな頃から家業を継ぐという自覚はありましたが、自分が酒を造って、会社経営をするとは思っていませんでした。結婚当時、父親からは井上酒造を継いでくれと言われ、3年経ったら日田に戻る約束でしたが、結局日田に帰らぬまま20年が経ってしまいました。娘が二十歳になった日に「今まで育ててくれてありがとう。これからママの人生を歩んでいいと思っている。故郷で家業を継がなかったらママは一生後悔すると思うよ」という言葉で、後半の人生は故郷に戻って故郷の酒を醸そうと覚悟を決め、日田に戻りました。
酒を造ることを生業としているからには、酒造りを学ぶべきだと思い、酒類総合研究所で清酒醸造技術を学び、次に「日田の米で日田の蔵人が日田の酒を造る」ため、農業を始め、それと同時に、経営状況の把握、経営理念の策定も学びました。経営理念として考えた言葉は「品質、伝統、革新」です。経営改善のために社員全員を集めて「会社の主役はみなさんです、現場で起こっていることを正直に教えてください」と協力をお願いしました。
4年前に九州北部豪雨の災害があり、井上酒造は一番被害が大きかった企業として報道されています。その災害の中で裏に住む90代のおばあさんが避難してきたときに「今大雨で浸かっちょる田んぼでは、昔から『角の井』の酒米を(地元の)大鶴の人が育てて、男衆が酒蔵に入って酒を造りよりました。だから嬉しい時も悲しい時も『角の井』が側にありました。」というお話を伺い、井上酒造の217年が地域のみなさまに支えられて今の姿があることを改めて知ることになり、もっと地域に根ざした企業になりたいと思うようになりました。
井上酒造では、ブランディング戦略も行っています。中小企業にとって最も必要なことだと思っており、ロゴデザイン統一など細く長く続けて行きます。企業経営で最も大切なことは継続することですが、時代のニーズに合わせて進化し続けなくてはいけません。200年以上続いた企業の後継者として、後半の人生は命をかけて故郷で伝統を継承していきます。
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生駒 祐一 氏(テラスマイル株式会社 代表取締役)
『地域で起業し、シリーズA(※1)調達を行った、ベンチャー企業の話 ~時代を一歩前へ~』
テラスマイルは8年目を迎える会社です。ゼロから会社を興し、JAグループ、オイシックス、九州の地方銀行からの出資をいただいています。私たちの事業は、農業の健康診断をするサービスを提供しようというのが発端です。農業者が事業をするときに戦略的に経営ができるようデータでサポートしたいと思っています。農業者が構想から実行するまでの時間を減らしたいと考え、なるべく負荷をかけずに情報を取得して、それを私達が戦略的に集計して分かりやすく伝えています。
私は2011年に宮崎で口蹄疫や新燃岳の災害などで働く場がなくなった人たちの受け皿として作られた農場のマネージャーとして農業とのご縁をいただきました。その時に「分からない」という言葉が日常化されている日本の農業に対して凄く驚きました。何が起こっているか、何が問題か、どうしたらいいか誰も分からないという状況でした。そこで私は分厚いノートを買って、朝から晩まで現場を見て回り、とにかくノートに書き溜め、当時の法人の社長に聞きながらそのデータを体系化していきました。
農業においては、現場に近いということが、地域資源を活用する場として有効です。また、現場で面白いのは、皆で何か仕掛けられるということ。社長が集まって提携すればその日が提携の日。そういった笑顔を集める仕掛けができるのは、農業というコミュニティのできる技だと思います。これからの新しい挑戦、それは自治体を、そして関係団体を変えること。農業のデジタル化を推進していくことです。農業では、就農する時のマニュアルが全て紙で、それを使いこなす技師が殆ど居ないという課題があります。私たちの会社では、町の特産物はこれ、どれだけ採れたらいくら稼げる、いつが稼ぎ時か、いつが働き時か、これをデジタルデータとして全て取っていく取組を始めています。それが一つのブランドの基盤になってくれたら嬉しいです。
これから起業を目指す方には、自分なりの勝ちパターンを創ることをお勧めします。腹は括るが逃げない。どんな逆風でも立って受け止めれば風は過ぎ去ることを経験して学びました。また自分の体と家庭の平和のために、半年先、1年先の資金計画を立てておく事も重要です。
※1 シリーズA:ベンチャー企業が事業を開始してから成長する段階の中で資金調達を判断する用語であり、創業初期に顧客が増え始めるステージ(創業手帳より)
【第2部】
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山下 千春 氏(一般社団法人MEET the NEW STYLE 代表理事)
『不登校の支援に福祉制度を用いたヒカリノアトリエの事例紹介
~学校で担えないなら民間でやるしかない部分~』
私には3人の子どもがいます。子どもの妊娠・出産・育児を通して子育ての孤立を感じた時に、親子が集えるコミュニティ「オヤモコモ」という活動で起業しました。そして、子どもの不登校に直面した3年前、不登校になった場合の居場所・支援が全然足りていないことを痛感しました。直後の2018年9月には、「佐賀に理想のオルタナティブスクール(※2 Alternative school以下「AS」))をつくる会」を発足。公立の学校以外の、何か代わりになるものをつくるというのが目的です。
その活動をしながら、親子で離島暮らしを1年間経験して、自分の中で理想とするイメージができたので、社団法人の放課後等デイサービス(以下「放デイ」)をつくりました。放デイはASとは異なり、国の補助がある制度です。不登校になっている子どもの半数以上が、何らかの発達特性を持っているので、発達障害の子どもが利用できるこの制度を使って不登校の支援をしようと決めました。現在運営しているヒカリノアトリエは、頑張ったからと言って収益が上がる事業ではありません。赤字を出さないように、1日10組の子どもたちが来てくれるようにすることが大事です。
不登校の子どもは毎年増えていて、小・中学生で20万人くらいいるのが現状です。自閉症スペクトラム等の診断がある子どもは、学校の中でも情緒障害特別支援学級に入級できて支援を受けられますが、定員が決まっていて、児童・生徒がどんどん増えてクラスの場所が確保できなくなったり、支援学級の先生たちが慣れておらず、子どもが怠けているかのように対応されたりしたことで学校に行けなくなることも起きています。
ヒカリノアトリエに来ている子どもたちは凄く生き生きしています。子ども達に合う環境設定ができれば、子どもたちはのびのびと毎日生活を送っていく事ができます。放デイをもっと不登校支援にも活かしていく方向で、九州や全国に増えていってほしいと願っています。
※2 オルタナティブスクール(教育):「非伝統的な教育」や「教育選択肢」とも言い、主流または伝統とは異なる教授・学習方法を意味する。(ウィキペディアより)
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河 京子 氏(株式会社Waris(ワリス)共同代表)
『何とかなるの精神でチーム創業してみたら本当に何とかなった話
~経営知識ゼロの3人が勢いでチーム創業し8年間事業成長をしてこられたウラガワ~』
株式会社Waris は2013年に女性3人で創業し、3人で共同代表をしている会社です。女性のキャリアを支援と、時間と場所にとらわれない働き方を社会にもっと広げていきたい思いで始めました。思いを体現するため創業当初から全社リモートワークで働いています。共同代表の3人も福岡、東京、ベトナムにそれぞれ住んでいます。会社の事業内容は企業の仕事と女性のジョブマッチングで、成立したら企業から手数料を頂くビジネスモデルです。最近では、東証への上場のため多様な人材確保、特に女性の社外取締役を希望される方を企業に紹介するサービスや、離職期間がある女性の再就職支援も実施しています。
私が前職の企業に入社した時に、一番のマイノリティは、数は多いはずだけど、女性ではないかという事に気づきました。ジェンダーギャップを何とかしないと日本の社会は沈没してしまうという課題意識が大きくなっていきました。もう一つは固定化された労働観。「自分のキャリアに危機意識をもって主体的に開発する」という考え方が日本では教育されていません。そこで個人の自律と、女性のキャリア開発の2つが自分の中の大きなテーマとなり、今の共同代表の2人と出会い、女性と企業の業務委託という形でのジョブマッチングをしていこうということになりました。
キャリアというのは仕事だけではなく、人生全体のことです。ライフイベントで沢山のアクシデントがあっても、その変化に対応できる柔軟性がキャリアをより豊かにします。この偶発性をキャリアに活かす上で、私が大事だと思うものが5つあります。好奇心、持続性、柔軟性、冒険心、楽観性です。さらに事業を継続するために意識していることは、「成長するための投資」、「自分たちで出来ない事は人に甘える」、共同経営の空中分解リスクを下げるため「常にビジョンを意識する」の3つです。
私がお伝えしたいのは、事業を行う上で様々なアクシデントはありますが、何とかなると思っています。皆さんのチャレンジを心待ちにしている人がいるので、強い思いがあるならば、とにかく誰かに言い始めてみるところから進めて行けばいいと思います。
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濱本 伸司 氏(一般社団法人フミダス 代表理事)
『若者がチャレンジできる街に ~産学官と連携し若者を後押しする仕事~』
一般社団法人フミダスは、熊本で人材育成の仕事をしています。私たちが実現したい未来は、全ての熊本の若者にワクワクしながらありたい姿、やりたいことを描く機会をつくっていこうということです。
熊本県では、45の市町村のうち26が消滅可能都市と言われています。どうやって地域を守っていくのか、若者たちがこの地域でワクワクできるのか、なかなか難しいと思っています。しかし、これからの地域を作っていくのは若者たちです。若者たちがホントにありたい姿や、やりたいことを実現できなければ、地域を離れてしまいます。
具体的には、若者たちが将来こうありたいと思った時に、実際社会の中でこういう人材になりたい、それを磨く能力を鍛えていくという機会を学生時代に作っていく。例えば、新しい事業の立上げや課題解決に若者たちが取り組む中長期インターンシップ、大学のプログラムで起業塾や高校生の商店街空きテナント活用の「SDGsチャレンジプログラム」などです。
キャリア教育や若者育成の仕事では、受益者からお金をもらえないことが大きな課題です。お金の出どころとしては、まず教育機関です。大学は実践教育、まさしく社会に役立つ人材を育てるカリキュラムをつくっていきたいという思いがあります。しかし、公立の大学などは資金がない。そこで企業に説明して、採用の支援と社員教育の一環として、大学と一緒に仕組みをつくっていこうとしています。大事なことは、学生たちをただ育てるのではなく、これが企業のためになるとか、地域のためになる、もちろん学校のためになる、お互いがWIN-WINの関係になるようなプログラムを提案していくことです。
私の場合は、初年度から県の業務委託を頂くことができました。それまでは県の他の担当部署とは全く縁がなかったのですが、「このプログラムの最終報告会をやるので、是非お越しいただけませんか」と案内し、見に来て頂いた時に、熊本のために絶対必要だと思うという熱い想いを話したことが業務委託につながりました。声を掛けて思いを伝えて行くことで、3年後、5年後に仕事になることも多いと思っています。
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講師のプレゼンテーション終了後には、意見交換・情報交換して頂く「交流会」を実施しました。オンライン参加の方からも積極的な意見交換が行われ、講師や会場参加の方々を含めて新しいつながりに結びついたようです。
今回の起業家フォーラムは、九州各地で活躍中の起業家から直接お話が聞けることで、参加した方々にとって大きな刺激になったようです。挑戦する起業家の出発点や課題解決の工夫などに触れることで、起業に取組むきっかけとなったことでしょう。