遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
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「つくる、そだてる、とどける」~食へのこだわりと事業継続~ 第38回PIPIT交流会(9月22日開催)

2021年 10月 07日

 今回の交流会は「つくる、そだてる、とどける」~食へのこだわりと事業継続~

をテーマに、3名の講師に登壇いただきました。

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため完全オンラインにて開催しましたが、今回も多くの方々にご参加いただきました。

◆起業家プレゼンテーション(18:35~20:05)

◇プレゼンテーション1

「6次産業化で、日本の農と食の距離を縮める!」

 畠中 五恵子 氏(有限会社 畠中育雛場 たまごん工房 代表取締役)

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 畠中氏は父親が50年前に創業した育雛場(いくすうじょう)の二代目経営者。育雛場というのは、卵を産ませる採卵鶏の雛を育てて養鶏場に販売します。雛だけでなく「採卵鶏」に関わる生産物や肉、卵、菓子などの加工品は「何でも」販売されており、現在は自社直売所、ネットショップ、道の駅などの直売所、飲食店や製菓店、グリーンコープ生協への卵の卸売など多くの販売チャンネルを持っています。

 雛を育てるには、注文数を守るために多めに育てる必要があり、これまでは余った雛が産んだ卵を地元で販売していました。「お客様である養鶏場よりも高く売らないといけない」「6次産業化等で良い結果が出たらお客様とノウハウを共有」という父親の教えと、「日本の生で食べられる卵は素晴らしい」との思いから、シェア獲得ではなく市場自体の拡大を図るため、同業者に「みんなで良い卵をつくろう」と呼びかけ共存共栄を目指してきました。そのため、新商品開発や新規事業展開は、様々な客先に行ける育雛場としての必然だったそうです。

 6次産業化することにより、リスクを分散し、打たれ強い経営になりました。2年前に落雷で火災に遭った時も、仲間が飛んできて助けてくれたそうです。また、6次産業化は社会情勢や消費傾向が変わっても生き残ることができ、なにより消費者を仲間にできることが強みです。

 現在の取り組みは、社会との共生を目指した10次産業化(6次産業化+4次産業:教育や情報産業)による消費者との信頼関係構築です。人まかせではなく、自分の手が届く範囲は自分でやることで、顔の見える関係を築けます。そのためにイベントや農業体験でのファンづくりを進めています。必要なのは誰でも参加できること。直売によって「農」と「食」の距離が縮まってきました。そして7年前には、女性経営者、6次産業化、地方創生の事例として、当時の安倍総理の訪問を受けるまでになりました。

 畠中氏は「小規模経営こそ、リスク分散と自分の手による情報発信が必要」と語られました。消費者の信用につながり、それが仲間づくりになり、生き残りにつながります。6次産業化(10次産業化)を切り口にして、消費者に信頼してもらえる生産者になろうと呼びかけられました。

◇プレゼンテーション2

「びっくり笑顔、作りましょう! ~バルーンアーティストからチョコレート職人へ~」

得居 裕江 氏(株式会社バルーンポップジャパン 代表取締役 / 株式会社たくらみ屋 代表取締役)

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 「チョコレート職人」としてご紹介する得居氏ですが、実はチョコレートに関わってまだ3年、店舗を開店して10ヶ月しか経っていないそうです。

 得居氏は元々、広告クリエーターとして、アイキャッチになる風船をビジネスにされており、「バルーンでびっくり笑顔、作りましょう!」というキャッチフレーズで、2001年にバルーンの通販事業を開始されました。バルーン事業では「価値の視覚化」を武器に「名入れ風船」を柱に、短納期、小ロット、データの融通性などにより機会損失を防ぎ競争力をアップしていきました。

 仕事で訪れたタイのゴム農園を視察した際に、自分が直接体験・経験することで得られる「一次情報」の価値を知ったそうです。

 チョコレートに携わる契機となったのは2018年2月に出張で利用した飛行機の機内誌で、カカオ豆から板チョコまでを自社で製造する「ビーントゥーバーチョコレート」の記事を読んだことから運命の出会いが訪れます。興味が一気にチョコレートへ向かい、チョコレートは科学ということを知り、体験ワークショップにも夢中になり、「一次情報」を得るためにメキシコ、ガーナへも行きました。そして中南米ではカカオが文化として根づいていることを実感しました。さらに、現地の教育事情や児童労働が行われていることにも関心を持つことになります。

 得居氏はチョコレートが「すごく好き」ではなかったそうですが、今まで知らなかったことを知ることができ、伝えたい、シェアしたい気持ちから仕事にすることになりました。そして2019年、自分の事業として「チョコロンブス」を誕生させます。事業理念は「日々是発見」。発見を提供しようというメッセージです。しかしコロナ禍にあって、事業としては厳しい状態も続いていたそうですが、様々な場面で仲間の存在に助けられました。

 事業を続けていくために必要なものは、「右手にロマン、左手にそろばん」と言われますが、得居氏はMG(マネジメントゲーム)とTOC(制約条件の理論)を学ぶと良い、役に立つとおっしゃっています。

 最後に、もうひとつ付け加えられた言葉は「心にジョーダン」。余裕を持ち、アソビゴコロがあってこそ、創造的な仕事ができるとのことです。今は余裕がないそうですが、ご自身の課題を「バッファ(余裕)をつくること」と述べられました。

◇プレゼンテーション3

「起こすというより暮らし耕し、継ぎ繋ぐ ~山の中で経済をまわす小さな里山の地域事業継承~」

 余村 紫 氏( 天空カフェ 店主 / 棚田の学校 主宰 ) 

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 余村氏は6年前に地域おこし協力隊として福岡県京都郡苅田町の、修験者の里として知られる等覚寺(とかくじ)に移住し、現在は「天空カフェ」と地域の味噌加工所を中心に事業に取り組んでいます。

 協力隊としてのミッションが「地域を盛り上げる」だったため、思いつくものを手当たり次第に始められました。天空カフェ、田んぼの農業体験、そば打ちや味噌づくりの体験、棚田景観保全、特産品づくりなど。その成果として年間の来訪者を3,500人増やすことができ、またそれらにより、地域課題に取り組む「場」と「コミュニティの創出」と、企業との連携など地域外の人による新たな活動やグループの誕生に結びつきました。

 等覚寺では、味噌加工所が地域コミュニティの中核です。小さな集落では守るものの優先順位を考えて「何を残すか」が重要であり、20年先の未来を考えて今の行動を決める必要があります。等覚寺で残すものは、迷うことなく「味噌加工所」。そのために、地域の一員になることにしました。

 地域を守り継ぐためには、「稼ぐ分野」と「投資分野」に分けることで集落を維持して行けるのではないか。「味噌加工所」を柱とした多角化により、集落で暮らす人は増やせなくても、地域の構成員を増やすことはできるのではないか。共に働き「信用」と、人柄を含めた「信頼」が余村氏の両輪です。

 限界集落において地域事業の継承とは、その集落を継承することです。そのためには、地域の中で経済をまわすことが大事になります。多角化へのチャレンジでは、新しいことは「個人」として始め、変化に対応できる環境で事業を起こす、信頼貯金で地域に眠る資産を使わせてもらうことが良いのではないかと考えているそうです。

 余村氏は、自分の現在地として「仕事」「暮らし」「地域活動」がほぼ等しい状態だそうです。小さな集落では、地域事業とは地域が続いていくことそのものです。自分の暮らしのブランド化が、地域のブランド化につながるとの想いです。

 自分の夢は「等覚寺で元気なばあちゃんになること」。一番大切な役目は、ここで暮らし続けること。すなわち地域事業をやり続けていくことであり、それを託される人になりたいとくくられました。

◆意見交換・質疑応答

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 意見交換では各講師に対して、事業継承についての考え、自分が暮らす地域の魅力、事業に求める人材等、様々な質問や意見が出されました。

 参加者からは「講師の皆様のパワーに圧倒されました」「事業をされている方の具体的な話が聞けて参考になりました」といった感想が寄せられました。

 ご登壇いただきました講師の皆さま、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。