遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
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遠賀町起業家フォーラム「起業家が仕掛ける、SDGs時代の持続可能な地域づくり2020」(2月15日開催)

2020年 02月 16日

 昨年に引き続き、第2回目の開催となる遠賀町起業家フォーラムでは、第1回目と同様「起業家が仕掛ける、SDGs時代の持続可能な地域づくり」をテーマに、起業家6名からお話いただきました。町内だけでなく、遠くは鹿児島や宮崎といった遠方からの参加者もありました。主催者から、起業の気運の高まりを期待する旨の挨拶でスタートしました。

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齋藤 潤一氏(一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構 代表理事、NPO法人まちづくりGIFT 代表理事、AGRIST株式会社 代表取締役、慶應義塾大学 大学院 非常勤講師)

「笑顔とお金のバランスがとれた持続可能な地域ビジネスのつくり方」

 米国シリコンバレーのITベンチャー企業で、ブランディング・マーケティング責任者として活躍されてきた齋藤氏ですが、帰国後、東日本大震災を機に「ソーシャルビジネスで地域課題を解決する」と各地の起業家育成に携わるようになりました。また、宮崎の地域商社「こゆ財団」の代表理事に就任し、1粒1000円の国産ライチのブランド開発も手掛け、地方創生の優良事例に選定されました。
 齋藤氏が伝える持続可能な地域ビジネススタイルとは、「発見→磨く→発信」を繰り返すものです。補助金に頼らず、ビジネスの仕組みを取り入れること、二つの天秤「笑顔」と「お金」のバランスを取りながら、仲間とやり続けることが重要と言います。
 行動する人が僅かという地方は、ある意味チャンスがいっぱいです。「シャッター商店街や耕作放棄地にただ幻滅するのではなく、自分の暮らしたい街を想像し、緩やかな繋がりで、小さい成功を積み重ねてほしい」、「ホームランはないが、一点先取を目指すべき」、「失敗することも大事、1勝99敗の精神で!」と話します。
 今の時代、「正解」は誰にもわかりません。「アイデアに価値はなく、行動に意味がある」、「躊躇せず、『Don't judge』で突き進もう。」、という力強いメッセージに多くの参加者が勇気づけられたことでしょう。

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桑原 由美子氏(NPO法人発達障がい者就労支援 ゆあしっぷ 理事長)

「発達障がいの子どもを持つ親が将来のためにやってきたこと」

 娘の発達障害がきっかけで、桑原氏は、福岡発達障がい者親の会の会長を務め、その後、2010年に個人事業として「発達障がい者就労支援ゆあしっぷ」を設立、法人化しました。障がいを持つ当事者、支援者、そして企業に対して、セミナーや講演、相談事業を行っています。
 発達障害は、今でこそ認知が進みましたが、就労となると「ありのまま」では厳しいのが現実です。十人十色の特性に寄り添い、必要なスキルやコミュニケーションを学ぶ機会を提供するだけでなく、専門家や就労支援事業所など、的確な場所につなぐなどの必要性を切実に感じていたそうです。
 心理学者マズローの研究結果も示しながら、発達障害においては、片付けが苦手なこと、曖昧さの理解が難しいことなど、具体的な特徴も紹介してくれました。必要なのは、「怠けている」という誤解を解き、障がい者手帳の有無にかかわらず、それぞれに必要な高さの「下駄を履かせてあげる」ことだと言います。
 これまでは、専門家と連携しながら学び、集える場がなかったため、桑原氏の提供しているセミナー等に参加したり、関心を寄せてくれる人は多く、手ごたえを感じているそうです。
 また、企業にとっても、適材適所、超短時間雇用という考え方や、「仕事の切り出し」などのノウハウ作りのきっかけにもなっているそうです。

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石川 麻衣子氏(Kids Code Club 代表、株式会社revee 代表取締役)

「自分らしさとWHYを大切にする起業」

 国立大学に進みながらも、家庭の経済的な理由で中退せざるを得なかった石川氏は、その後、独学で学んだwebデザインやプログラミングの知識やスキルを活かして起業しました。現在は、自社経営の傍ら、家庭の経済状況の制約を受けずに子どもたちが自由に学ぶことのできるプログラミング教室などの事業化に向けて取り組んでいます。
 敢えて「身の程知らずになる」という表現を用いて、チャンスを積極的に掴みに行くことの大切さを自身の体験談とともに伝えてくれました。そのチャレンジを、SNSなどで発信すれば、必ず見ていてくれる人がいて、何かにつながって行く、とアウトプットしていくことの重要性も伝えてくれました。
 何のために働くのか。なぜ、それが必要?なぜ、私がやるの?『Why』を問い続け、「誰もが自由に楽しく学べる社会を作っていく」と決意したという石川氏。学校や行政、企業、国内外のNPOとも連携しながら、これからの社会に必要なITスキルや「考え方」を事業化していることが伝わってきました。
 「起業家自身の持続可能性」について、SNSなどの雑音に振り回されず、自分の心、自分らしくあることを大切にしてください、というアドバイスに会場は大きくうなずいているようでした。

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平瀬 祐子氏(株式会社 yHa architects 代表取締役)

わくわくするモノづくり~「家具デザイン」から「公共空間」まで~

 就職難の時代、学生時代から起業を念頭にしていたという平瀬氏は、無我夢中で修行した後にスイスに渡り、現地の建築事務所で仕事をする機会を得ました。スイスでは日本と違い、一般市民が建築に関心を寄せ、雑誌やショーケースに作品が公開されるなど、いろいろな意味で鍛えられたそうです。
 公私を共にするパートナーとは、スケールやセンスの違いを活かして、役割分担しているとのことです。ひらめきに頼らず、観察や調査、ディスカッションを重要視しながら、「地域性」、「時代性」、「社会性」に合致するもの、物語を感じられる建築を目指してきたそうです。 
 これまで手掛けた作品は実に多彩です。十数年以上かかわる酒造ギャラリーでは、建物を軸に地域の人、モノ、結果的に意識まで変化をもたらしました。五ケ山ダム周辺をアウトドア拠点へと変えるプロジェクトや、住宅街の保育園など、持てる才能で「建築の力」を余すことなく発揮させました。
 平瀬氏にとっては、起業は人生の中のごく自然な選択のようで、何よりも建築を愛し、丁寧に突き詰め、幾重にも重ねていくような仕事ぶりが、たくさんの受賞歴や次の仕事へとつながっているのだと感じました。

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前田 雅史氏(株式会社 お掃除でつくるやさしい未来 代表取締役)

「自分なら働きたくなるような会社、その思いが地域の未来を拓く」

 前田氏は、建具メーカーの営業職として絶好調だった29歳の時に、「自分らしく生きること」を目的に会社を辞め起業しました。それまでの人間関係を活かし、売り出したのは「掃除」です。営業力には自信があり、売るものは変化しても構わない、そんな気持ちからのスタートだったそうです。
 こだわったのは、「良い会社とは?」という追求でした。既成概念にとらわれない、最良の組織、チームを作ることに力を注ぎました。その後、「株式会社 お掃除でつくるやさしい未来」は、昨年、全国クラウド活用大賞で総務大臣賞を受賞します。それがどのようなものなのか、実態を紹介してくれました。
 現場には直行直帰、子連れOKの地域密着&労働集約型で、サービスの質やスタッフの笑顔をクラウドが支え、日本初の完全オフィスレス企業を目指しています。政府が提唱する「ソサエティ5.0」とは、仮想と現実が高度に融合し、経済発展と社会的課題解決が両立する社会ですが、前田氏のやろうとしていることはまさにそれでした。
 前田氏にとっての起業は、社会や組織の在り方そのものを研究していくことでもあるようです。前田氏は、「会社組織を社会の循環ツールとして活かしてください。」と広い視点からも、発想のヒントを投げかけてくださいました。

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久保 尭之氏(一般社団法人みなみあそ観光局 戦略統括マネジャー、株式会社REASO 取締役・経営企画統括、合同会社阿蘇人 副社長)

「~移住と観光~ これからの人と地域を結ぶ仕組みづくり」

 現在20代の久保氏は鹿児島出身で、東京大学を卒業後、大企業でエンジニアをした後、東日本大震災の産業復興支援を経て、熊本地震を機に南阿蘇へ赴きました。そして、南阿蘇の魅力を新鮮な切り口で商品化し、観光から移住、地域づくりへと活動の幅を広げてきました。
 「夜の草原歩きツアー」や「田んぼでカヤック」など、豊かな自然や文化を活かし、その価値を再構築すれば高額でもニーズがあることを提示し、ローカルに必要なことは、ナンバーワンではなく、オンリーワンであること。加えて、住民と観光客の境界をはずし、誰もが「自分らしい生き方ができる」という雰囲気をつくりました。
 繰り返すキーワードは「主体性」です。「自分」を取り戻し、「生きている」と実感できるのは、地方だと言います。そのために重要になってくるのが、「住まい」、「生業」、「コミュニティ」で、それらを提供する起業家として、人と地域の関わり方までもマネジメントしていることが分かりました。
 自宅もシェアハウスとして開放するなど、共感、共生を軸に「やりたいことがある」という人を全力で応援しています。地震やインフラ面でリスクを拭えない南阿蘇で、地域の信用を得て、可能性を追い続ける久保氏。柔軟な思考と斬新な戦略、そして着実な久保氏の行動には、参加者も大いに刺激を受けている様子でした。


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 ランチタイムと講演終了後のティータイムに、意見交換・情報交換していただく交流会を実施しました。遠賀町の食材などを使った料理やドリンクを味わいながら、登壇した起業家と参加者との会話は大いに盛り上がり、新しいつながりがたくさん生まれました。
 活躍中の先輩起業家のお話を間近で聴き、交流会では直に会話を交わすなど、新たな発想やアイデアが引き出されたり、自分自身のスキルや専門性を再認識したりするなど、参加した方々にとって、この起業家フォーラムが、起業家精神を肌で体験でき、起業に取り組むきっかけとなったことでしょう。