「始めてみよう!駅前事業 ~チャレンジできる舞台~」第41回PIPIT交流会(2月22日開催)
今回の交流会は「始めてみよう!駅前事業 ~チャレンジできる舞台~」をテーマに、3組の方に発表いただきました。
新型コロナウイルス感染防止のためプレゼンターのみなさまはオンラインでご登壇いただきましたが、会場とオンラインを合わせて多くの方にご参加いただきました。
◆起業家プレゼンテーション(18:35~20:05)
①「地域イベントを通じた街づくりと人材育成~騎射場のきさき市の背景とビジョン」
須部 貴之 氏 鹿児島県鹿児島市(株式会社KISYABAREE 代表取締役)
須部氏は鹿児島市の中心部である「騎射場」エリアで、市電の停留所まわりに約100店舗が出店する『騎射場のきさき市』を2015年から開催しています。大学が地域にあることで若者も多い町でしたが、地域の人と結びつきがないことが課題でした。2021年11月の開催で8回目となった今では、のきさき市により地域の人が結びつき、地域に賑わいや生業が生まれています。
もともと実家が不動産業を営んでおり、須部氏自身も大学卒業後に東京や福岡で不動産業に従事、8年前に17年ぶりに鹿児島市にUターンしましたが、その際に地元の不動産業に危機感を持ったそうです。そこで北九州市で始まった「リノベーションスクール」に参加し、まちづくりを考え事業計画を練る経験をしました。ここで学んだことは、今あるものを活かし、民間主導の公民連携によって、地域経営課題を解決することでした。今までの時代とは全く違うこと、これまでのやり方は通用しない時代に、自分たちがやりたいことをやることによって町の生業をつくることが重要だと学んだそうです。
2015年から始めた『騎射場のきさき市』ですが、100店舗、1万人のイベントが一気に出来上がったわけではありません。地域の人が結びつき、賑わいが生まれてきたキーワードとして、須部氏は「共感」と「発信」を上げられました。仲間をつくり、仲間の中から関係性を築いていく事がポイントで、それを発信することによって、行ってみたいイベント、参加したい活動になっていくそうです。
若者が参加しやすく、地域住民を巻き込んでエリアをつなぐために、騎射場ではイベントという手法を使いました。のきさき市を続けてきたことにより、今では「まちが面白そう」と思われ、空き店舗が埋まり、まちに居場所すなわちコミュニティができています。
須部氏は今、ライブ配信・広報戦略支援という新たな事業を始めています。コロナ禍でのトレンドを考え、ハードの投資を抑えて事業コンテンツに投資した事業です。また、一人ではできないことを、みんなでやるために、鹿児島の仲間でチームをつくる「薩摩リーダーシップフォーラムSELF」という事業も立ち上げられています。事業には、アイデアを持っている人と相談し、スピード感をもって考え抜くことが大事であり、それを伝えなければ意味がないと締めくくられました。
②吉富駅前チャレンジショップの事例発表
・吉富町の駅前を中心とした起業家育成の取組紹介
吉富町は大分県との境に位置し、「九州一小さな町」と呼ばれています。
吉富町では6年前から、「女子集客のまち」というテーマのもと、JR吉富駅を中心に、人の流れによる商業の活性化、空き家問題の解消、移住定住の増加などを目的とした取組みを進めています。
この取組みの柱に「起業家育成」があり、チャレンジショップ事業、交流マルシェ、創業支援スクール、PRサイト「よしとみイイコト通信」等が実施されています。
チャレンジショップはJR吉富駅のすぐとなりにあり、2016年3月に第1号店がオープン。翌年2号店、3号店がオープンし、町内での開業を前提に最長3年間の入居が可能となっています。これまでにチャレンジショップへは7店舗が入居し、すでに営業終了した4店舗は、吉富町の内外で開業しています。出店問合せも多く、現在10名ほどが待っているそうです。
今回の交流会では、現在営業中の3店舗のうち2店舗に、出店の経緯や運営状況、今後のビジョンなどを事例発表していただきました。
・「吉富駅前チャレンジショップ事例発表 1」
友松 実咲季 氏 福岡県吉富町(パンデピス オーナー)
友松美咲季氏は『パンデピス』というケーキ屋を開業されています。
吉富町のとなり、中津市出身の友松氏は、北九州の製菓専門学校を卒業後ホテルのパティシエ部門で働き、その後家庭の事情でしばらくはお菓子作りから離れていました。しかし、小さい頃からの夢を諦めきれず、チャレンジショップに応募しました。
もともと「チャレンジショップ」は知っていましたが、金銭面のことや家庭と両立できるか不安もあり、家族と相談して開業を決意されたそうです。2019年夏に出店応募後は創業スクールなどの支援プログラムを活用、商工会や創業スクールの講師等にアドバイスをもらいました。その年の12月に入店が決定し、2020年4月に『パンデピス』がオープンしました。
『パンデピス』は約8畳分のコンテナハウスです。ケーキの製造は全て自分が行い、販売のためにスタッフを1名雇っています。ショップの広報はインスタグラム一つに絞って発信を続けています。
チャレンジショップの家賃は安いのですが、開業のためには設備や備品などに大きな出費が必要でした。友松氏は、このショップの前の入居者である弁当店から設備を安く譲ってもらったほか、商工会や町役場の助成金なども活用することにより、開業することができたそうです。開業2年目の今年度は、インスタグラムや口コミで常連のお客様も増えた他、「ふるさと納税」の返礼品にバタークリームケーキが採用され、売上を伸ばしています。
「駅前」での効果として、目立つ場所にあることで多くの人に認識してもらうことができ、男性のお客様が増えているそうです。年に数回、駅前で開催されるイベントも、県の内外から多くの来場者があり、ショップを知ってもらう機会になっています。
開業してからの反省点はたくさんあるそうですが、お客様の要望にどこまで応えるかに最も心を配っています。今では商品の種類を減らし、無理のない範囲で対応しています。またクリスマスやバレンタインデーなどの年間スケジュールも計画に入れています。自分の店を客観視でき、お客様目線で考えられるようになりました。
「チャレンジショップという企画がなければ開業していなかったかも知れない。」という友松氏ですが、実践していく中で大切なことがたくさん学べたと自分の経験を語られました。
チャレンジショップの卒業後は、おもちゃ屋さんのようなワクワクするケーキ屋さんを、吉富町内で開業したいと考えています。
・「吉富駅前チャレンジショップ事例発表 2」
岡田 まゆ 氏、田中 ひよ 氏 福岡県吉富町(cyeri room オーナー)
『cyeri room(チェリルーム)』は、岡田まゆ氏と田中ひよ氏、双子の姉妹が営んでいます。
主力商品のテイクアウトドリンクは、「食べるドリンク」をテーマに、ボリューミーで見た目も映えるドリンクです。期間限定パフェや不定期ですがトルティーヤ生地の「ちぇりのらっぷさんど」も取り扱っています。セレクトアイテムとしては、インポートのアクセサリーや洋服、全国のクリエーターの作品などを販売しています。
二人とも地元の高校を卒業した後、岡田氏は娘を出産して専業主婦になり、田中氏は中津市のセレクトショップに勤務しながらグラフィックデザイナーやDJとしても活動していました。しかし、自分たちらしい働き方をしたいと二人で考えるようになり、起業を決意しました。その際に「やってみたいこと」や「あったらいいなと思っていたこと」を二人で書き出してみて、今のショップのスタイルが生まれました。
地元「吉富町」に愛着があったので町内でテナントを探しましたが物件探しに苦戦、「チャレンジショップ」があったことを思い出して役場へ応募し、2020年5月に『cyeri room』がオープンしました。
開業にあたっては、知人の大工さんから店舗内装や机などの作り方を教わって自分たちで作成したり、田中氏がデザインの能力を活かしてショップカードやフライヤーをつくったりして、初期投資費用は二人の自己資金で賄うことができました。
開業後もコロナ禍でのテイクアウト需要のため運営は順調とのこと。またショップの広報は開業準備前からインスタグラムを開設し、毎日更新を続けています。
「駅前」で良かった点としては、長時間無料の駐車場や綺麗なトイレがあって立ち寄りやすいこと、ショップ前のウッドデッキに椅子やテーブルを置くことで子ども連れでも安心して待つことができること等を上げられました。ただひとつだけ、子どもの遊び場が近くにあればより良い場所になるのにと感じているそうです。
チャレンジショップを卒業後も、吉富町で店舗を持ち、自分たちらしい働き方で、自分たちらしい空間づくりをしていきたいと考えています。
姉妹で起業した『cyeri room』ですが、家族や友人、お客様などに支えられています。自分で始めることは簡単なことではないけれど、得られるものもたくさんある。試行錯誤し続けることが大切だとおっしゃいました。
◆意見交換・質疑応答
意見交換では発表者に対して、大学生など若者の巻き込み方や人材育成、お客様からの無理な要望への対応、チャレンジショップのタテ・ヨコのつながり等、様々な質問や意見が出されました。
参加者からは「身近な起業の事例で、とても参考になりました」「自分が地域にとって力になれることを考えていきたいと改めて思いました」等の感想をいただきました。
ご登壇いただきました講師の皆さま、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。