遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
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「視察交流バスツアー」伝統技術と文化の街で起業のヒントを見つけよう!(福岡県大川市・筑後市)12/5開催

2018年 12月 06日

 今回の視察では、「伝統技術と文化」が息づく筑後市と大川市にある3つの企業を訪ね、長い歴史を受け継ぐものづくりの現場を肌で感じていただくとともに、変化を恐れず新しい取り組みに挑戦を続ける経営者から「起業家精神」を学びました。

「手から手へ ひと織りひと針 愛情込めて~宮田織物創業105年のものづくり~」
宮田織物株式会社 代表取締役社長 吉開 ひとみ 氏

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 創業100年を超える宮田織物株式会社では、吉開社長が先代から受け継いだものづくりへの想いを話してくださいました。テレビドラマの衣装に使われることも多い宮田織物の製品は、袢纏(はんてん)など、日本人に昔から愛されている木綿織物が中心です。

 「福岡デザインアワードを連続受賞したのは、デザインを私から若手に引き継いだおかげなんです。」家業を20歳で継いだ吉開社長が冗談交じりに語るほど、今では若い人材を積極的に起用しています。また、「女性が元気な会社、女性が働きやすい会社」にするために、育休復帰後のスタッフが働きやすい職場環境づくりに取り組み、働き方改革推進大会で表彰を受けました。

ものづくりへのこだわり

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 大きな糸巻き、織機、裁断機、テキスタイル(織物)デザイン用コンピューターが並んだ工場施設内では、活き活きと仕事に打ち込む女性の姿が多く見られました。針一本見逃さない検品システム、そして、人の手で一本一本の糸を紡ぐ細かい作業の結集で、温かみのある製品が作られていきます。

 広い工場のため、以前は部署間のコミュニケーションが不足しがちだったそうです。そこで、自分の持ち場以外を清掃したり、木鶏会(相手の良いところを見つけるなど、人間学を学ぶ社内勉強会)や朝礼で社員同士がつながりを持つなど、お互いを知る機会を増やすことでコミュニケーション不足は改善され、生産性の向上につながったといいます。

 「常によいものを作る、顧客が求めるものを作る、商品に心を込める、商品が顧客を幸せにすると信じる。」どんなに苦しいときでも、宮田織物がこだわってきた「ものづくりへの想い」が込められた言葉です。継続すること、守り伝えることの大切さ、そしてそれを活かしながら新しいものを生み出す発想──参加者はそんな起業家精神をたっぷりと体感したのではないでしょうか。

「企業経営の過去・現在・未来」
株式会社関家具 代表取締役 関 文彦 氏

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 黒いシャツに黒いスーツ、そして赤いネクタイ。ショールームに並んだ家具に負けないスタイリッシュなコーディネートで颯爽とやってきた関社長と一緒に、エレベーターでビルの最上階へ上がった参加者の前に、広大な筑後平野が飛び込んできました。

 50年前にゼロから起業した関社長は、この仕事を「天職」だと信じ、常に全力で取り組んできました。元手がない創業時は、卸売業として大川の家具メーカーと販売先の家具店を往復する日々でした。遠くは筑豊から北九州にも足を延ばしたそうです。お金がない分知恵を使うと、それが結果的に「利は元にあり」を実践する売り方になったといいます。

転換点を見誤らない

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 アメリカ人のライフスタイルを参考に、「これからは桐ダンスよりもソファやテーブルなどの『脚物』。」と確信し、時代にマッチした商品の開発へと舵を切ります。タイミングを見誤らないことで、事業を拡張しながら、創業以来、全年黒字経営を継続してきたと話します。

 シンプルながら、どれも力のこもった言葉ばかりで、熱い話に圧倒された参加者も多くいました。そして、講演後も、時間いっぱいになるまで一人ひとりの質問に真剣に答えてくださいました。その後、関社長のご案内でショールームを見学した参加者は、大きな一枚板のテーブルや、座り心地が最高に気持ちのいいリクライニングチェアーを愛おしそうに説明する姿に、関社長のパッションをさらに感じていたようです。

「食酢の伝統と魅力」
株式会社庄分酢 代表取締役 高橋 一精 氏

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 お酢は時間と手間をかけてゆっくりと発酵させることでまろやかに仕上がっていきますが、それを可能にしているのが菌の働きです。庄分酢の年季の入った工場や蔵には、壁や屋根瓦に黒く焦げたような色をしたところがあります。実はここに黒カビ菌が生きており、この変色は庄分酢が長い間発酵に携わる仕事をしてきた証なのです。

 「発酵と腐敗の違いって何だか解りますか」という質問を皮切りに、長年守られてきた昔ながらの製法や先人たちの工夫が紹介されていきます。例えば、半分だけ土中に埋めた大きな甕は、中の温度を一定に保ち、太陽熱を吸収して発酵を促します。また、和紙に柿渋とフノリを塗ったその紙ぶたには仕込み年月日を書き入れ、時折ふたを開け菌膜の状態を確かめながら3カ月の発酵期間手入れを続けることなど、一切手を抜かない伝統の製造方法に参加者は感心します。

「魅力のあるものを造れば売れる。」

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 その後、居蔵造りの建物をリノベーションしたカフェに移動し、高橋社長にお店の歴史と伝統についてお話を伺いました。短時間で大量生産可能な安い競合品と差別化を図りながら、「魅力のあるものを造れば売れる。」という信念を持ち、自社商品と地道に向き合い、取り組んで来た過程があったことを知りました。

 そして、「美味酢」で作った野菜のピクルスと赤葡萄酢のドリンクを味わいながら、東京銀座最大級のハイクオリティ商業施設「銀座シックス」への出店を紹介する番組を視聴しました。伝統製法を守る一方で、東京ではパッケージや価格帯が異なる商品を投入するなど、革新的な一面もあります。

 そのほかにも、酒蔵の蔵開きにならってはじめたお酢の蔵開きイベントが、地域全体に広がって定着し、大川の古いまち全体を保存しようという動きになったそうです。

 食品製造で起業を考えている参加者は、この庄分酢で大きなヒントを得たのではないでしょうか。

伝統の継承と変化への対応に起業のヒントを見る

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 目標の起業にたどりついても、事業を軌道に乗せ、経営を安定させるまでは大変困難な道のりがさらに続きます。それを長きにわたって続け、50年、100年を越えて維持していくというのは、想像を絶するものがあります。

 今回訪れた3社は、単なる技術の枠を越え「伝統技術」と呼ばれるまでの長い歩みを、独自のこだわりと柔軟な姿勢で乗り越えてきました。先人の教えに学び、築いてきた伝統を大切に守る一方で、時代の変遷に耳を傾け、変化を恐れず新しいことに積極的に取り組む姿にそのことが象徴されています。

 伝統を守るために働く人たちの姿、そしてお話をしていただいた経営者の方々から、事業にかける熱い想い、そして勇気と元気をたくさんいただきました。伝統となった技術を後進に語る今回の参加者の姿を50年後に見たいものです。