遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)

「おんがの起業家たち!」第30回PIPIT交流会(遠賀信用金庫・遠賀町商工会との協働企画)(1月 29日開催)

2020年 01月 30日

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 今回の交流会は、遠賀信用金庫、遠賀町商工会との協働企画。「おんがの起業家たち!」と題して3名をお招きしました。はじめに遠賀町商工会より、事業紹介がありました。商工会は、町内の会員事業所に対し、経営改善や課題解決のサポートをする組織ですが、事業所の支援だけでなく、遠賀川駅前のイルミネーションや、得トクまつりなど地域振興にも積極的に取り組んでいることなどについても話されました。

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 続いて、昨年、創立70周年を迎えた遠賀信用金庫から、銀行との違いなど、ユーモアも交え説明がありました。利益をただ追うのではなく、地域や未来の在り方を考え、人と人との信頼を何よりも大切にしている、とのお話です。

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 どちらも起業家にとっては、頼もしい相談相手。今回のスピーカーたちにも温かなエールを送り、会場を一気に和ませてくれます。
 来場者は、「人材育成のヒントにしたい。」、「起業家を応援したくて。」など、参加動機はさまざまです。
 3名の「おんがの起業家たち!」がどんな話を聞かせてくれるのか、期待が高まります。

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松永 達也氏(株式会社 T's PROJECT 代表取締役)

「念願の独立!開業までの道のりと思い、そしてこれから~」
 自動車業界に飛び込んで16年、いつか自分の店を、という夢を叶えたばかりの松永氏のスタートは、板金、塗装の技術を身につけるところから始まりました。若さと集中力で仕事に打ち込み、2年で4年分くらいの力をつけたそうです。しかしその技術は、なかなか表舞台で評価されるという内容ではありませんでした。そこで、次の手がかりを「カスタムカーショー」で見つけます。車を自己表現のツールとして加工・装飾する、一種のマニアとも言える「カスタム」の世界です。エアロパーツの世界に足を踏み入れ、技術をさらに磨きました。勤務先では、気難しい顧客や経営難も垣間見たと言います。そして、ネットオークション、加工センスなども学び、販売までの道筋も見えてくると、原価、つまり中古車市場が気になりはじめました。
 そこで次は、車買い取り店で勉強です。自ら期限を決め、謙虚な姿勢で、その道のエキスパートから集中的に学びます。その過程で信頼できるネットワークも増やしていきました。やがて、仕入システムや査定ポイントも理解し、いよいよ起業の時が近づきます。
 そして、経営実務の知識も必要と気づいた頃、「創業支援セミナー」を見つけますが、既に満席。ここで諦めてしまうこともあるでしょう。しかし、松永氏は違いました。再度電話し、キャンセル待ちを依頼し、受講することができるようになりました。「それまで、チャンスは『与えられる』ものだと思っていましたが、その時、自分から取りに行けるものなのだな、と思いました。」
 そこで、同じ志を持つ仲間にも出会い、やる気も加速します。令和1年11月1日という1の並んだ日に、ついに自身の『株式会社 T's PROJECT』を誕生させました。
 松永氏から見えてくるのは、起業までの着実なステップです。まずは、板金という基礎技術を身につけた上で、自分の方向性を探り、必要なノウハウ等を段階的に掴んで行ったことがわかります。若者の車離れなど、マイナス要素はあるものの、「カスタムカー」に着目し、ニッチなニーズに応え、また、仕入れから製品加工、販売と全てを手がけて行くために、周到な準備をして行ったのです。
 熱く語るのは、「情熱。伝える力。伝わる行動。」の大切さ。そして、「起業は一人でするものではない。」ということ。一人でも多くの人とつながって、時には頼ればいい、とも話してくれました。
 起業を考える人に対しては、「リスクはある。しかし、やって失敗するのと、やらずに後悔する、どちらを選びますか?」とキッパリ。これまでの濃密な人生を感じさせると同時に、さらなるステップを想像させてくれました。

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有松 位氏(ピッツエリア カントナータ 代表)

「カントナータ」という生き方~気ままに個人事業を楽しんでます~」

 「ドジな子」という意味の『カントナータ』は、石窯ピザの移動販売車で、町内ではお馴染みのキッチンカーです。以前、牧場に勤めていた際にも、「この牛乳で美味しいジェラートを作りたい!」と思うなど、その頃からフードビジネスへの想いがあられたようです。その後、退職して4年前に起業しました。
 商談会などで「移動販売」という手法には惹かれていたものの、直接のきっかけは、町内のキッチンカー製造会社からの声掛けでした。開業直前の石窯を載せた車が1台、余っていたのです。周辺にピザ店はなく、これは大きなチャンスでしたが、肝心のピザを焼く技術は、ゼロ。しかし、車両の購入を決め、とりあえず他の料理でデビューを果たしました。「これが楽しくて!楽しくて!」。すると、縁は不思議なもの、ピザ職人が登場です。修行を乞い、無事に「ピザ職人」を名乗れるようになりました。
 移動販売は、一匹狼の孤独な仕事というわけではありません。現在は、二つのギルド(組合)に加盟し、北九州キッチンカー実行委員会の重要な役も務める有松氏。全体を俯瞰し、ソロプレイヤーの限界を感じることなく、何もかも自分で決められる個人事業です。お話から、仕事を心底楽しんでいる様子がうかがえます。
 時間や場所によって、ハンバーグやご飯が加わるカントナータですが、売上の一部を町内の社会福祉協議会に寄付するという『赤い羽根フードトラック』などの社会貢献も行っています。こうした発想は、大企業さながらの組織図があるからでしょうか。「大企業っぽい組織図をつくり、ひとりで各部の部長をこなす!」とも語るように、商品開発、営業、経理など、すべての部を兼任する社長です。こうすることで、課題や苦手分野も分かり、問題解決の手がかりになっているそうです。
 また、「マンダラート」という発想法も紹介してくれました。これは、真ん中にテーマを置き、そこから八方にアイデアを広げていくもので、難しくても、「あの人ならどうする?」などと視点を変えたり、時には、例えば「形容詞縛り」など工夫をして、言わば「強制出力」を行うことで、常に、次の「打つ手」が出てくるそうです。
 そんな柔軟な発想力を持つ有松氏は、手芸や武道など趣味も多彩で、PCでのビジュアル加工も習得し、もともとのセンスにスキルを次々と加え、チラシやポスターなどの受注制作も手がけるようになりました。「もう何屋か分からんね。」と言われるそうですが、そんなオリジナルな働き方は、大きな魅力なのではないでしょうか。

 「打つ手なら、いくらでもある」と言い切る有松氏。ふと思い出すのは、「強いものが生き残る」のではなく、「変化したものが生き残る」という進化論。ビジネスも同様かもしれません。何があっても、自ら打開策をみつける。今を楽しみ、必要なものを引き寄せる。そんな逞しさを感じずにはいられませんでした。

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小役丸 敏幸氏(株式会社グラノ24K 取締役、ぶどうの樹 岡垣ワイナリープロジェクト統括)

「ぶどうの樹」のこれまでとこれから」
 遠賀郡が誇る有名店『ぶどうの樹』の出発点は、昭和初期に開業した海の家でした。それから約半世紀、超未熟児で誕生したという小役丸氏は、「小さく生まれて大きく育ちました。」と笑います。
 海外の高校へ進学し、国内でさまざまな仕事を経験した後に、再び海外へ飛び出します。ホテル業やワインを学び、現地ワイナリーで修行を積んで帰国すると、家業『ぶどうの樹』に加わりました。岡垣町は、北九州と福岡のちょうど中間に位置し、美しい海と山があります。
 「一代一業」を家訓とする小役丸家にとって、この場所はかけがえのないもので、「地元にこだわること」、「無いものねだりはしないこと」をモットーに、「ここにしかない田舎」を目指し、農業やレストランなど、オリジナルな業態を広げていきました。「三方良し」の、生産者、消費者、地域の三者が笑顔になれるやり方、食と環境が循環、調和することがテーマです。
 例えば、普通は、レストランと言えば、「メニューありき」で、食材は各地から調達するのがほとんどです。しかし、食材中心、規格外もふくめ、露地栽培の旬なものにこだわった『ぶどうの樹』では、無駄のないバイキング形式に変えたのです。料理長の「創作料理」は注目を浴び、開放感あふれるロケーションと相まって、評判は高まりました。また、惣菜工房、豆腐、パン、ソーセージなど食品加工も積極的に取り組みます。
 農業、加工業、販売業、の6次産業化により、社員とパ―トあわせて約300人を抱える「グラノ24K」では、人を育て、夢を育てる手間も惜しまないそうです。レストランは、直営店、FC店、コラボ店と全国に展開し、「グランピング」という新しいコンセプトにも挑戦中です。そして来春、満を持してワイナリーがオープン予定です。「一代一業」の主軸を小役丸氏は、ワインで起こしていくことなりました。

 「夢を追いかけてください。」とまっすぐな視線。そして、「起業が何のためか、ということを大切にしてください。」、と続けます。「起業、会社経営は、手段であって、目的ではないはず。」『ぶどうの樹』の下に生まれた小役丸氏が、ワイン事業を展開するのも、夢を追いかける中での、ひとつの過程。その先の夢はまだまだ続くのだな、と理解しました。

 ワインの種類や酒税、販売免許などの話もあり、手続きの煩雑さや苦労も想像以上です。原料などは、遠賀町も含めた地元地域から入手したい、「夢を語り続けるのが夢」とも明言し、会場にワクワクと応援したい気持ちが広がりました。

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 3名それぞれの起業物語を聞いた後は、和やかな歓談タイム。ここピピットで、人と人の縁がまた新たにつながっているようでした。

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