『世界中から「ありがとう」の声が届くタオル』 ~「品質がいい」を超えるモノづくりに挑戦する起業家のこだわり~ (第9回遠賀町起業支援セミナー)(11/14開催)
今治タオルを世界的ブランドに押し上げた印象の「IKEUCHI ORGANIC」。その勢いと成功の秘訣を代表者から直接聞けるとあって、会場の席は早々に埋まりました。はじめに、今治市出身ながら、実は子ども時代の長期休暇を遠賀川の流域で過ごしていたことを告白。親戚の御婦人も同席し、和やかな雰囲気でセミナーがスタートしました。
家電メーカーに12年勤めた後、家業をついだ池内氏でしたが、もちろん順風満帆ではありませんでした。転機は、約500社のタオル織機業者がひしめく中、倒産の危機に面します。そこで、これまでの業態を見直し、直接売ること、現金取引すること、永久に作り続けることを決意します。そして、「しまなみ海道」が開通した頃、今治の特産品として、品質アップとブランド戦略に奔走が始まりました。
日常的に欠かせないツールでありながら「気軽な贈答品」といったポジションに甘んじていたタオル。廉価な外国製品も多くなり、どんな勝負で生き残りをかけるのか、決断を迫られます。そこで、タオル職人であり、敏腕ビジネスマンであり、故郷と家族を愛する地球人である池内氏が出した答え、それが「オーガニック」でした。そして、一途に、深く、徹底していくのです。
そんなタオルを最初に評価したのは、海外市場でした。ニューヨークでは日本でありがちな「あれもこれも」といった商品/ビジネスより、オーガニックに特化したことでむしろ信用を得やすかったと話してくれました。風力発電100%のモノ作り「風で織るタオル」が話題になった後、池内氏はその概念を会社組織にも広げようと社名を変更し、半世紀後を見すえた目標も掲げました。
「最小限の環境負荷で、赤ちゃんが食べても安全なタオルをつくる。」つまりは、農薬なし、化学肥料なしで農家に手作業で栽培してもらった遺伝子組み換えでない綿を、フェアトレードにより、仲介料のない適正な価格で輸入し、漂白や染色に徹底して留意して、縫製に心を砕き、電力や排水まで最大限に配慮する...。グローバルかつ猛スピードで変容していく21世紀にあって、それはコストも困難も伴うこと。しかし、国際規格や認定基準を次々とクリア、トレーサビリティの導入も決めました。
愛媛今治の他、Web、東京、京都、福岡とショップ展開し、コラボイベントや工場見学ツアーなども行っているIKEUCHI ORGANIC。何とその購入者の何と半分以上がリピーターというから驚きです。しかも、男性客が自分のために購入するケースが多いとか。そして、会場の中からも「決して高額とは思わない」との声。群を抜いた品質、それを裏付ける様ざまな努力とデータ、企業の熱い思いが、エンドユーザーまでしっかりと伝わっているのです。
「一番嬉しかったのは、今治の小学生から後継の申し出があったこと」と目を細める池内氏。SDGs(国連サミット採択の持続可能な開発目標)も見すえて、企業活動を行う一方で、地域の子どもに、IKEUCHI ORGANICのこと、モノ作りのこと、環境のことを丁寧に語っていることを知り、会場は温かい空気に包まれました。
全企業のうち、中小企業の占める割合は90%以上と言われています。競合他社がひしめく中、熾烈な戦いを強いられることもあるでしょう。しかし、こだわる部分を1つ定め、それを深く掘りさげ、ブレることなく続ける、そんなストイックなやり方が共感を得て、成功につながることもあると感じたセミナーでした。