遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)

「地域を興す起業家の活動」第33回PIPIT交流会

2020年 11月 27日

 今回の交流会のテーマは「地域を興す起業家の活動」。糸島市とうきは市でともに地域で人と人を繋いで課題の解決にご活躍中の起業家をお招きしました。

 今回も、会場はフィジカルディスタンスを保つため、少人数制とし、「新しい生活様式」のもと、web会議システムZoomを使って、オンラインでも参加できるように開催しました。

1.起業家プレゼンテーション(18:35~20:05)

プレゼンテーション 1 ***********************************************************
「『面白いファースト』からはじまる複合事業」
福島 良治氏 (いとしまコンシェル合同会社 代表社員)
G福島氏写真バストアップ.jpg
 3児の父親でもある福島氏は東日本大震災を機に、関東から子育て環境を重視した移住先として、いくつかの候補地から福岡県糸島市を選び、2015年3月に移住しました。移住してからは、とにかく人と繋がろうと色々なところに顔を出し、盃を交わし、出会った人からの紹介に紹介が重なり、移住したその年に知り合いの数が300人を超えるまでになったそうです。その延長線上に2016年から始めた「いと会」というコミュニティイベントがあります。
 映画好きが集まったある機会に「糸島で映画会をしてみよう」となり、後で大きなうねりになるのですが、屋外映画イベント「いとシネマ」が始まっていきます。開催に先立ち屋外で見るための300インチのスクリーン購入をクラウドファンディングで実現します。迎えた2017年5月3日は『博多どんたく』の日、ましてや朝からの雨。会場に人は来るのかと不安に思っていたところ、雨が小雨になり、夕方には夕日が見られる状況にまで回復しました。人が少しずつ、どこからこんなに集まったのかと思うほどに増えていき、映画が始まる前には協力してくれた10店舗ほどの露天商のお店から売り物が無くなったほど盛況だったそうです。その日、2,000人もの人が映画を見に来てくれたこともあり、福島氏は仲間たちと何かを成し遂げる素晴らしさを味わったと振り返ります。
屋外映画会.png

 そんな中、今度は糸島市役所から「他では見られない世界の短編映画約50作品が上映されるアジアでも最大の短編映画祭『ショートショートフィルムフェスティバル』をやらないか」と声を掛けられます。福岡県内5か所で並列して行われるそのフェスティバルを利用して、中心市街地に元気を取り戻せないかということだったようです。そこで、前原の中心にある商店街を映画の力で元気にしようと、空き店舗や営業中の店舗の忙しくない時間帯を使って6か所のマイクロスクリーンを使って上映します。開催場所の地図はもちろん、上映のスケジュールもあらかじめ映画を見に来た人が街中を散策してもらう時間を取れるように工夫し、上映も時間を空けて、空いた時間に各会場独自のライブ企画や地元アーティストの作品展示など行いました。このような賑わいの仕掛けもあって、どの会場も満席、立ち見状態で大成功を収めたそうです。
 そして、屋外スクリーンを使った映画上映も次は水素自動車の電源で行うなど進化していきます。
 最初の「いとシネマ」に来ていた映画関係者の方から糸島で映画を作りたいと相談され、オール糸島ロケ映画「糸」に制作協力をし、「いとシネマ」で完成イベントとして披露しました。「いとシネマ」を始めて1年もたたないうちにここまで来て、本人も驚くのですが、何をしていたかというと、「人と繋がっていき、やりたいことをお互いに話し、色々な能力を持つ人に助けられたから出来たし、『面白いファースト』がものすごい原動力になった」と話します。

福島氏プレゼン.JPG

 他にも色々と仕掛けていき、最近では『いとしまちカンパニー』を立ち上げ、今年1月からオープンコミュニティスペース『みんなの』を運営しています。この事業は人材の宝庫である糸島で面白い人たちが繋がって新しいことを生み出し、糸島の課題を解決するとともに他の地域の課題解決の手助けになればというものです。
みんなの?.jpg

 以前勤めていた楽天株式会社で、三木谷社長から言われた「月に行こうという目標があったから、アポロは月に行けた。飛行機を改良した結果、月に行けたわけではない。」という目標設定と、それに対する差分をどのように埋めていくかということも推進力になると思います。もう一つ、「差分を埋めるのに面白いとか楽しいにかなう原動力はないな」ということを移住してからの5年間で感じたそうです。これからもその原動力を信じて思いもよらない結果につなげて行きたいと話されました。

プレゼンテーション 2 ************************************************************
「超高齢化地域での『75歳以上のおばあちゃんたちが働く会社』」
大熊 充氏(うきはの宝株式会社 代表取締役 / うきはデザイン 代表 / うきは農園 代表)
大熊氏バストアップ②.jpg
 デザイン会社の代表でもあり、1デザイナーでもある大熊氏ですが、うきは市の課題解決に実働で乗り出すために2019年10月『75歳以上のおばあちゃんたちが働く会社』を立ち上げました。
 うきは市は久留米市と大分県に挟まれた地域で、自然豊かな浮羽町と昔の宿場町の名残を感じさせる吉井町が合併した、人口2万9千人ほどの市です。しかし、高齢化が進み、総人口に占める65歳以上の割合が全国平均よりもかなり高いという状況にあります。おばあちゃんたちが働く会社を設立したきっかけは大熊氏は20代でバイク事故を起こし、約4年もの入院生活を送っていた時にあるそうです。入院先の病院で車椅子の毎日を送っていたそうですが、やもすると塞ぎこんで自分を見失いそうなとき、その気持ちを和ませてくれたのは同じ入院仲間のおばあちゃんたちだったそうです。その時のことが忘れられず、「今度は自分がおばあちゃんたちに頼られるようになろう、役に立とう」と奮起します。
おばあちゃん食堂_1.jpg

 最初に実態調査の必要性を感じた大熊氏は『買い物難民』と『お困りごと』をあぶりだすため、毎週水曜日に『一市民による高齢者無料送迎サービス、ジーバーうきは』を始めます。デザインやマーケティングをやっていたこともあり、お困りごとがある高齢者にメッセージが届くように仕掛けることができ、現在では約200人が利用しているそうです。その中で分かったことは、高齢者が買い物に行くということが、いかに大変なことかということと、知らない者同士を乗せていると86歳と81歳のおばあちゃんが意気投合して友情が芽生えてきたり、またそれが生きる喜びにもなったりしてきたということです。また、人とのつながりで言うと1週間のうち会話したのは大熊氏とだけ、というように孤立ということもわかってきました。その反面、高齢者の経済状況も浮き出てきます。買い物に連れて行ってもいろいろなものを買うゆとりが無く、「月にあと2~3万円もあればいいのだけど」という状況がわかってきました。
大熊氏プレゼン.JPG

 また、大熊氏はうきは市で65歳以上の5,000人に対面調査もしました。75歳以上の元気な方に聞くと、6人に1人以上は「働きたい」と即答したそうです。そこで大熊氏は75歳以上の一人暮らしのおばあちゃんが働けて、月2~3万円稼げる会社を作ろうと考えました。
 仕事の内容は、おばあちゃんたちの得意とするものです。何をしたいか聞いたところ、農業をされていた方もいるし、「料理ならば」という方もいたとのことで、農産物や加工食品、料理となったようです。実際に『ばあちゃん食堂』ということでプレ稼働している時には「なにか懐かしい味がする、出される料理に温かみを感じる」など、中高年に熱烈なファンが多かったそう。飲食店は今年4月からオープンという時に新型コロナウイルス感染症により休業をやむなくされるということで実稼働があまりできてはいませんが、収束したら再開するそうです。おばあちゃんたちが作る梅干しや、漬物などの加工品や野菜を作っているおばあちゃんの農作物と近所のお孫さん世代の農家の農産物で作る『うきは野菜セット』を通販で扱うことによって想像以上の売上を記録しているそうで、これで食堂を休業している分のカバーが出来ているそうです。他の商材もこれから充実させるそうで、今後が楽しみと話します。

ばあちゃん食堂.jpg

 また、会社はチーム制になっていて、4人の75歳以上のおばあちゃんたちに75歳未満のおばあちゃんJr(ジュニア)が配属され、またそこに若いスタッフが配属されて、大熊氏曰くジャニーズジュニア方式だと言います。これは今の75歳以上のおばあちゃんたちを何とかするというような一過性ではなく、今後、おばあちゃんJrも若いスタッフもおばあちゃんになっていくのだから循環していくものでないといけないとの考えなのだそうです。大熊氏もあと30年もしたら、その時の若いスタッフに雇ってもらい、何かお手伝いをしたいと考えているようです。

 現在、「うきはの宝」を中心に「うきは農園株式会社」、古民家コワーキング・シェアオフィス「FLAT FORM UKIHA」、「古民家カフェチャレンジショップ・シェアキッチン」、「わかもんレンタル」、遊休施設の指定管理事業、「フリビ(おじいちゃんおばあちゃんの出張美容師サービス)」などたくさんの事業を展開している大熊氏、働き方の多様化に対応しながら、おばあちゃんの生きがいの創出と年金プラスの収入増という2つの目標はブレることなくこれからも歩み続けることでしょう。
集合写真.JPG