遠賀町起業支援施設PIPIT(ピピット)
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「多様化するデザイン起業家!」第32回PIPIT交流会

2020年 09月 24日

 今回の交流会のテーマは「多様化するデザイン起業家!」。意匠・地域・創意工夫等多様化するデザイン分野でご活躍中の3名の起業家をお招きしました。今回も、会場のPIPITではフィジカルディスタンスを保つため、少人数制とし、新生活様式のもと、web会議システムZoomを使って、オンラインでも参加できるように開催しました。

1.起業家プレゼンテーション(18:35~20:05)

プレゼンテーション 1**********************************************************************
「自宅が仕事場 デザインでおうち起業〜『若さと勢いで起業してしまった』とあるデザイナーのおはなし〜」馬場 真帆氏(マホデザインスタジオ 代表)

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 幼い頃から絵を描くことが好きだった馬場氏、将来何をするか、何をしたいかを考えた結果、グラフィックデザインに進もうと決め、九州造形短期大学へ進学しました。そこで、グラフィックデザイン、イラストレーション、写真等の基礎を学んだそうです。
 卒業後は久留米の靴メーカーに就職し、ミキハウスのベビー靴などの新製品開発を手掛けます。
 その後、広告代理店に転職しますが、「自ら、ポスター、チラシ、ロゴマーク、紙媒体などを手掛けたい」という想いが強くなったことと、消化器系の疾患といった健康上のことで悩みます。そのとき、職場の先輩が見せてくれた自宅で起業したデザイナーについての新聞記事をきっかけに、この形だと思い立ち2000年頃同様に自宅で起業することになりました。

 それから数年後、地元新聞社の発行するフリーペーパー『Cleba(クレバ)』の表紙制作に携わることになり、それからおよそ10年間、制作に関わっているそうです。表紙に携わったその冊子は、発行するとすぐになくなってしまうほど人気になり、やがて企画段階から参加するようになります。柳川市や大川市の紹介のための取材や写真撮影に行くうちに、筑後地区のいろいろなイベントや観光情報を広く知るようになり、自身のスキルもアップし、記事の執筆や誌面デザインにも関わるようになったそうです。他にも、『おおむたまちなか新聞』では、厳しい状況下でも頑張っている個性あふれる店主さんや、イベント情報など商店街の魅力を発信するべく、取材から写真撮影、執筆、デザイン、印刷、納品までを全て行っているとのことです。
 今でこそ福岡県の仕事や子育て応援誌、遠賀町起業支援施設PIPITの機関誌なども手掛けていますが、情報発信に魅力を感じていた頃に立ち上げたフリーペーパーが2年で廃刊になったり、わからないタイ語のフリーペーパー制作に悩まされたりと苦労も多かったそうです。

 2017年からインターネットのサービスで印刷などができるようになり、目標の一つであるひとり出版社「moi!Books(モイブックス)」を立上げ、『やぎのメーちゃん』を刊行しました。これは、大牟田市の小学校からの依頼で、小学校で実際に飼っているヤギ2匹のうち1匹の『メーちゃん』が高齢になるも、子どもたちの心の成長に寄与したということを称えて制作した絵本だそうです。

 20年ほど前に馬場氏が起業した頃は、手に技術があれば、いくつになっても仕事はあると言われていました。しかし、地方創生や地域おこしで、若い技術が地方にもやってきたことで、ベテランのクリエイターは押されてしまい、何か別なことをしないと生き残っていけない状況下にあると言います。「特に女性は、結婚、出産、子育て、介護に追われてクリエイターを引退する人も多く、実際、自分も親の介護問題が目の前に迫ってきている。今後も順調に仕事をやって行けるのかというと、先が見えない状態ではあるけれども、自分の好きな、刺激的な、楽しい仕事は続けていきたい。自宅でできる仕事は、長く続けていく可能性が高まるし、これからももっとたくさんの技術を習得して諦め悪くクリエイティブにやっていきたい。」と話されました。

プレゼンテーション 2***********************************************************************
「デザインを通して地域に投資すること」谷口 竜平氏(プロデューサー、デザイナー)

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 谷口氏はデザイナーとしてグラフィック、ロゴ、パンフレットの仕事だけでなく、カメラマンやイラストレーターの方々とチームを組んでディレクター、プロデュ―サーの仕事もしています。

 宗像市出身の谷口氏は6年前に個人事業主として独立し、福岡市で仕事をしていました。しかし、4年前に地元宗像の実家を相続したことで、いきなり7,200坪の地主になり、仏壇のある実家、2階建ての農業用倉庫を持つことになりました。そこで、若い谷口氏は冒険をはじめました。まず行ったのは、仲間と山でツリーハウスを作るということです。デザイナーの能力を使ってチラシを作り、仲間を募りました。月1回土日にその仲間と集まり、1年かけて作り上げました。実家をシェアハウスへリノベーションもしました。

 そして、粗大ゴミだらけの農業用倉庫を『バー洋子』と名付け、人が集まる場として企画しました。食べ物や飲み物は一品ずつ各自持ち寄って、交流する場所にし、ライターやショップカードもデザイナーとして企画しました。そこがきっかけとなり、現在、色々なところで『バー洋子』が発生し、全国20か所で開催しているそうです。
これも、クリエイターと地元の人が集まって何か化学反応が起きないかと思ってやった成果だと話します。

 そういう経過で生まれたのが、環境回復活動『宗像日本酒プロジェクト』です。このプロジェクトは宗像で自然栽培でお米を作っている人が、「自然栽培で作ったお米は巡り巡って、自分たちの環境、自分たちの子供や、自分の体に良い影響をもたらす」という事をお米を配る代わりに、日本酒を介して伝えていこうというものです。久留米の山の寿酒造や、そこに繋げてくれた人とともに活動しています。他にも、トレーラーハウスで一夜店長制でいろいろな生産者の話が聴ける飲食店をやったりしました。

 そうしているうちに宗像大島の沖ノ島を臨む一日一組限定宿"MINAWA"をはじめることに参加します。フランス料理屋の協力を仰ぎ、食を通じて地元の歴史・文化に思いをはせながら飲食できるガストロノミーイベントを行なったそうです。

 離島を日本の縮図と考えている谷口氏は、一足先に大島で打開策を考えようと合同会社渡海屋(とかいや)を設立します。その他にも、サウナ、ファスティング(断食)、猪肉のペットジャーキー事業などを準備中とのことです。また、創業支援施設「fabbit宗像」の地域サポーター、街道の道赤馬館の企画・広報、むなかたオープンキッチンMOK (生産者と地元の人を繋ぎ、食の大切さや料理の仕方や工夫を教え合う場)、むなかたの人を東京で集めるイベント「リトルムナカタ@東京渋谷」も開催するなど精力的に活動しています。

 デザイナー、クリエイターにとって地方で"起業する"とは、「表現やクリエイティブ、ものづくりを武器にコンテンツを量産できること。」それらを魅力にこれからも活動して行きたいと話されました。


プレゼンテーション 3***********************************************************************
「あたまやわらかいぎ、してみませんか?」神戸 海知代氏(株式会社かんべ笑会 代表)

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 神戸氏はデザインも手掛けていますが、もともとはコピーライターで企画やコピーを考え、それらのアイデアをカタチにする仕事というのが出発点と話します。広告代理店のクリエイティブな仕事をしていて、ご縁があって福岡で生活を始め、2016年に独立し、株式会社かんべ笑会を開業されました。今までに、TCC新人賞、日本雑誌広告賞・経済産業大臣賞、消費者のためになった広告コンクール・金賞など多数受賞されています。

 『伝えたいものがあってそれを伝えるカタチがデザイン』と話す神戸氏が手掛ける案件には、クライアントから直接の案件も、広告代理店や制作会社と連携する案件もあるそうです。今回は、食べるものが大好きという神戸氏が、コピーライター、アートディレクター、クライアントでやり取りをしてモノを作っているという、株式会社ふくやとのいろいろなデザインの仕事を紹介していただきました。キャッチコピーに「また、送ってね。と言ってほしいから。」があるそうです。

 広報本部長は、最強のクライアントとも表現される5歳の息子のそーすけさん。キャッチコピー「パンツは、よごれるためにある。」を制作し、メッセージをカタチにしたところ手ぬぐいパンツ「ぐいパン」が誕生しました。西島伊三雄 さんが書いた山笠のデザインをパンツ地にしているものもあり、躍動感と楽しさがあふれるこのパンツは、キッズデザイン賞を受賞されました。お話しを伺う中で、神戸氏が色々なシーンで別々のメッセージを同じモノに使っていく販売戦略も感じ取れました。

 自身が一般部門審査員を務める、10/1から応募開始のキャッチコピー大会『第58回宣伝会議賞』の紹介もありました。

 その後、ペアになってのミニワークショップ「あたまやわらかいぎ」が始まりました。
 内容は、短気、せっかちなど、どうしようもない自分の弱点を3つ書き出し、お互いにプレゼンテーションします。話す側と聴く側にしっかりわかれます。話す側は想いをこめて、聴く側はしっかり受け止めることが大切なようです。次に相手の弱みの部分を強みの言葉に変換します。例えば『せっかち』は『テキパキ』に『優柔不断』は『思慮深い』というよう変換して、共有した強みをお互いにわかちあいます。そして実際はどうなのか、確かめます。
 自分にとっての弱みは、誰かにとっての強みとなるかもしれません。自分のなかにあるものにたよらず、相手のなかにあるものを引きだしていく。ホンネをありのままに引きだして、まんなかになる価値をみつけて共有していくこと。正しいか正しくないか、ではなくすべてに価値があり、だれかをしあわせにできるということに気づくというものでした。
 共有できる価値を最大限に言葉で表現することが神戸氏の意図するデザインなのだと感じました。

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 会場からは、「ミニワークショップも有意義で、デザインの発想の源が知れて楽しかった。」「クリエイティブなプランやデザインの今を知ることができてとてもワクワクした。」とのお声を頂きました。オンラインで、ブレイクアウトルームの使い方についてのご意見を頂きましたので、見直していきたいと思います。

 ご登壇いただいた講師の皆さんありがとうございました。